
2020年9月9日;(写真は和歌山県の那智勝浦町にある那智の滝です)
陰陽と補瀉
漢方の治療法に「補瀉(ホシャ)」と言う概念が有ります。
「補う」か「瀉す」か。
正反対の治療法になります。
虚実とは
一般に「虚証は、体質、体力的に衰えている。実証は、体質、体力的に充実している」と解釈される場合が多いです。
しかし東洋医学では本来、虚とは正気(セイキ)の虚を指し、実とは病邪(ビョウジャ)の実を指します。
正気とは「身体を守り治す能力」。病邪とは「病の重症度」と考えれば分かりやすいです。
補瀉とは
補瀉に関しても「補とは、虚証を補う(免疫力を上げ守る)。瀉とは、実証を瀉す(攻める)」と勘違いされています。
東洋医学の古典、黄帝内経(コウテイダイケイ)素問(ソモン)の陰陽応象大論(インヨウオウショウダイロン)篇第五に「即ち、病の陰陽、虚実、寒熱を審らかに診察し、補瀉を行うのであります」と記載されています。
補瀉とは、虚実だけでなく、陰陽、寒熱をも含めた全体像に対する治法です。虚証、実証だけの狭義の治法ではありません。
峻補、峻瀉の漢方薬
漢方薬の中に
峻補(シュンホ)と呼ばれる紫荷車(シカシャ)、鹿茸(ロウクジョウ)、蟾酥(センソ)
峻瀉(シュンシャ)と呼ばれる麻黄(マオウ)、大黄(ダイオウ)、芒硝(ボウショウ)、竜胆(リュウタン)などが有ります。
これらの漢方薬は非常に速い効果が期待されます。
大補、大瀉の漢方薬
次に効果が早い漢方薬は
大補と呼ばれる人参(ニンジン)、当帰(トウキ)、黄耆(オウギ)、山茱萸(サンシュユ)、芍薬(シャクヤク)、膠飴(コウイ)、大棗(タイソウ)
大瀉と呼ばれる桃仁(トウニン)、枳実(キジツ)、桔梗(キキョウ)がなどが有ります。
これらの「峻、大」を用い効果が遅い場合、漢方薬が合っていない可能性もあります。
一つの目安になります。
気血水
東洋医学では病因(病気の原因)を気血水(キケツスイ)の3つに分けます。
気毒、血毒、水毒です。その毒に対する漢方薬が気剤、血剤、水剤です。
気血水剤の成分
気剤は精油成分と言う揮発性の成分が含まれます。良い香りがします。
血剤は油性で、揮発性以外の油性の成分が多くなります。
水剤は水に溶ける水性の成分が中心となります。
気剤とは
漢方薬の煎じ薬を飲む時に、気剤はまず鼻粘膜から香りとして入ります。
鼻粘膜と胃粘膜で最も早く吸収されると考えられます。
水剤とは
次に水剤です。胃は水性ですので、胃粘膜から吸収されると考えられます。
胃と腸で吸収されていきます。
血剤とは
最後に、血剤です。
胃から十二指腸を過ぎると胆汁の界面活性作用の働きで腸は水性と油性の混ざった水溶性に成っています。
血剤は油性成分のため最後に腸で吸収されます。
漢方薬は気剤、水剤、血剤の順番で吸収されるのが分かります。
最も大事な気剤の香り
東洋医学では「気」の異常により、「水(スイ)」「血(ケツ)」が動かされ病になると考えています。まさに「病気」です。
病は気毒から始まる
病の原因には気毒(キドク)、血毒(ケツドク)、水毒(スイドク)が有ります。
全ての病には「気毒」が存在します。これが病のスタートだからです。
そして「血毒の病」か「水毒の病」に分かれていきます。
気剤を詳しく
当然ですが、すべての漢方薬はこの気毒に対する「気剤」が入っています。
気剤は3種類に分かれます。
1.上気(ジョウキ)に対する
2.気滞(キタイ)、気塊(キカイ)に対する
3.気虚(キキョ)に対する
上気と気滞、気塊には揮発性の精油成分が必要です。
気毒に対する養生
食養生では葉野菜や香りのするミント、紫蘇、大葉、ワサビ、胡椒などを摂ると良いです。また運動などで発汗、発散すると自律神経のアセチルコリンが分泌され、上気や気滞は改善されていきます。
気虚に対しては、蒲陶などの甘い果物や根菜類、穀物を摂ると良いです。気虚にはアク、苦みの少ない食材が合います。玄米は禁止です。
気剤の俢治
気剤には精油成分の新鮮な精油を使う生薬、薄荷や蘇葉等が有ります。
また、わざと日光に当てたり、或いは長期間保存し精油を飛ばし使う生薬、陳皮(チンピ)等が有ります。
このような煎じ薬原料の下ごしらえを修治(シュチ)と言います。修治は精油に毒があるかどうかで変わります。
修治は、効果を上げるために行う場合と毒消しのために行う場合があります。
利尿剤と漢方の利水剤
漢方薬には腎炎や浮腫、腹水などに使用する利水剤と呼ばれる薬味、漢方薬があります。
利尿剤の作用
化学薬品の利尿剤の働きは様々です。
腎臓の糸球体で濾過された尿に対し、尿細管内の浸透圧を上昇させる事により再吸収を防ぎ利尿します。
或いはナトリウムや塩素の再吸収を阻害することにより水分の再吸収を抑え利尿します。
或いは副腎皮質から分泌される硬質コルチコイドの抗利尿ホルモンのアルドステロンに拮抗することにより利尿したりと様々な利尿作用があります。
漢方の利水剤
漢方薬の「利水剤」の代表的な薬味は、茯苓(ブクリョウ)、白朮(ビャクジュツ)、半夏(ハンゲ)、木通(モクツウ)、杏仁(キョウニン)、細辛(サイシン)、防已(ボウイ)等が有ります。
これらを使った代表処方が五苓散(ゴレイサン)や防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)、当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)などです。
利尿剤と利水剤の違い
化学薬品の「利尿剤」は誰が服用しても尿の回数、量が増えます。
漢方薬の「利水剤」は、身体の中に余分な水分がある人だけ尿が増えます。
身体の中に余分な水分が無い人は尿が増えません。
その為、漢方では「利尿剤」ではなく、「利水剤」と読んでいます。
これも漢方薬の正常化作用の一つです。
怪病は水毒
漢方には「怪病は痰として治せ」「水は怪なり」の言葉が有ります。
色々な治療をして治らない病、治療をすると様々な症状が出る病などは怪病の場合が有ります。このような時は水毒の治療をすると改善するとの教えです。
水毒の性質
水は丸い容器に入れると丸くなり、四角の容器に入れると四角になります。色んな形に変化するのが水の特徴です。
水毒の病は掴み所が無いのも特徴となります。
水毒と燥湿
水毒は燥(水分の減少)と湿(水分の増加)に分かれます。身体全体の燥湿ではなく部位ごとの燥湿が重要になります。
汗をかけば体表は湿となり、汗に水分を取られた血管内は燥となります。
五苓散証や白虎湯証は、肌は汗ばみ(湿)血液中の水分は減少し脱水(燥)しています。故に血液が燥のため反射神経で口渇を訴えます。