2022年6月30日。写真は、久住タデ高原です。
先日、九州の伝統漢方研究会でお話した内容です。
気血両虚の考え方
気血両虚と言う漢方概念があります。代表的な処方に八珍湯があります。十全大補湯は八珍湯に黄耆と桂皮を加えた加味方です。
八珍湯
八珍湯は脾の四君子湯と腎の四物湯の合方です。脾と腎は東洋医学の臓腑機能であり、解剖学的な臓腑ではありません。
四君子湯は脾の気虚に使われます。四物湯は腎の血虚に使われる処方です。その為、八珍湯は、脾の気虚の四君子湯、プラス腎の血虚の四物湯の気血両虚の方意と考えられています。
間違いではありませんが、これは現代薬理学的な考えに基づく発想です。例えば総合感冒薬は、解熱剤と咳止めと抗ヒスタミン剤を合わせます。熱にも咳にも鼻炎にも効くと考えるのと同じ発想です。間違いでは無いですが、東洋医学は更に奥の深い理論で効果を求めていきます。
賊邪の意味
黄帝内経、難経五十難に「夫と同族の邪が婦を犯す時、賊邪也」とあります。例えば夫は肝、相剋の脾は婦になります。同様に、脾の四君子湯証が夫の場合、腎の四物湯証が婦になり相剋です。
また脈経には「賊邪は大逆となす。十死治せず」と記載されています。脾の四君子湯証と同属の邪が原因で腎の四物湯証が病むと賊邪、十死治せずです。
肝が虚すれば脾を実すべし
金匱要略、臓腑経絡先後病脈証篇に「夫れ未病を治す者は、肝の病を見て脾に伝うるを知り、当に脾を実すべし」と治療原則が書かれています。肝が虚している時は、脾を実すべしと書かれています。同様に脾の四君子湯証が虚している時は、腎の四物湯証を補い実します。
脾の気虚の場合、賊邪相剋の腎を補うのが基本
八珍湯証は腎虚による血虚ではありません。脾の気虚が著しく、さらに脾の血虚が強い状態が八珍湯証の気血両虚になります。
古典の中の八珍湯
八珍湯を記載の外科発輝、正体類要、勿誤薬室方函、口訣、重訂古今方藁、方読弁解などの古典にも八珍湯証の脾虚による気血両虚の症状と治法が書かれています。脾虚による気血両虚の時に、腎を補うのが八珍湯、十全大補湯になります。脾虚による血虚を補うための四物湯で、腎虚のためではありません。
浅田宗伯の勿誤薬室方函には、八珍湯「治肝脾傷損」と記載されています。四物湯の中の地黄ではなく、当帰の存在が大きくなることが伺われます。
当帰芍薬散は四物湯の加減方にあらず
同様な治療法は当帰芍薬散でも見られます。当帰芍薬散は、四物湯去地黄合四君子湯の方意と言われています。
当帰芍薬散は肝に属します。処方内容は、当帰、芍薬、川芎、澤瀉、白朮、茯苓です。当帰が肝に属し、婦の相剋の脾を白朮、茯苓で補っています。病で犯された臓腑が分かり治療点の臓腑が判明すると、養生法が分かり、補助剤が選択できます。
十全大補湯。黄耆の補気作用
薬用人参と黄耆は、共に補気のエネルギー、活力の代表的漢方薬です。しかしその作用には大きな違いが有ります。本草学の古典を見ると
薬用人参
人参は、薬徴には「心下鳩尾、痞硬を主治する」、訂補薬性提要には「大いに元気を補い、中略、血脈を通ず」、古方薬議には「中、胃腸を調え、気を治し、中略」とあります。胃腸を強め、気エネルギーを増し、造り補気します。
黄耆
黄耆は、薬徴には「肌表の水を主治」、訂補薬性提要には「表を固め」、固表、身体の体表を強く密にする働きで、東洋医学では、この3要素で身体が構成されていると考える様々な気血水の漏れを防ぎます。気の漏れも防ぎますので、気エネルギーが蓄えられ、結果的に補気に成ります。そして補薬の長と呼ばれるようになります。
黄耆の固表とは
黄耆の固表の働きの例です。
- 水分が汗として漏れ生じる汗疹アセモに、桂枝加黄耆湯
- 皮膚に水分が漏れ水泡になるストロフルスに、桂枝加黄耆湯
- 耳の中に水分が漏れ生じる滲出性中耳炎に、桂枝加黄耆湯
- 関節の中に水分が漏れ溜まる関節症に、防已黄耆湯
- 内臓が外に漏れて出来る腹壁ヘルニアに、黄耆建中湯
- 腎炎の糸球体からの漏れに、黄耆加味
人参と黄耆の違い
胃腸を強め気を造る薬用人参。気の漏れを防ぎ気を蓄える黄耆でした。黄耆は薬膳料理のスープのダシにも使われます。少し甘みが有り美味しいです。