五志の憂とは

東洋医学理論

写真は福岡市、百道タワーの桜まつりです。

五志とは

黄帝内経素問の陰陽応象大論第五に
人にもまた五臓が有って五つの精神的な働き、即ち、肝は怒、心は喜、脾は憂、肺は悲、腎は恐の感情を生じるものである。
と記載されています。これが五志です。

東洋医学、漢方では患者さんの怒り、喜ぶ、憂う、悲しむ、恐れるなどの感情で、その臓腑を考えます。
その患者さんの五志の臓腑に配当される漢方薬にて患者さんの精神的な状態を改善させることがよくあります。
五志は治療方針を作る一つの情報になります。

一つ気を付けないといけないのは喜ぶの感情です。何も無いのに笑ったり喜んだりする状態です。
自分の気持ちをコントロールできない状態と考えた方が良いかもしれません。
喜ぶの文字に捉われると理解出来ないかもしれません。
五色では心に配当される大棗の適応になります。処方では甘麦大棗湯などです。

五志の憂の意味

五志の怒、喜、憂、悲、恐が異常に強くなった状態です。

誰でも腹が立つことがあれば怒ります。悲しむこともあります。
一時的な感情で五志は変化します。
しかし治療の対象にはなりません。

五志の憂が原因で体調が不調になる場合、漢方治療対象となります。
また一時的な感情の変化でなく、慢性的に五志の憂の異常が続く場合も治療対象になります。

五志の憂のお病気

五志の憂には様々な病態があります。

ノイローゼなどの神経症

苦労症の人に多い疾患です。
肉体的には軽微、或いは異常が無いのに、症状が強く現れる事が多いです。

ノイローゼの一種であるヒステリー

ヒステリーはギリシャ語で子宮の意味です。
虚栄心が強く、我が儘、想像力が逞しく、空想的、喜怒哀楽の激しい人に多いです。

症状に知覚障害や運動障害が多いです。
漢方治療での改善スピードは出足が遅いです。しかし途中より急速に改善する傾向があります。

また疾病逃避、疾病利得などの特徴があります。
疾病逃避、疾病利得は心の病をご参考に

うつ病

患者さん本人が精神症状を自覚していないことがあります。

特徴として日内変動があります。
午前中は調子が悪いです。夕方になると調子が良くなるパターンです。

症状は行動力の低下や不安感、絶望感、自己卑下、罪悪感などです。
回復期に衝動的な自殺願望が出たりもします。

マスクドデプレッションと言われる仮面うつ病も含まれます。

統合失調症

症状の特徴として独り言や空笑い、突然に興奮したり逆に黙り込んだりします。
被害妄想が出ることもあります。
幻覚、幻視、幻聴などの特徴があります。

初期の症状は神経症と同じ症状が出ることがあります。
牡蠣肉エキスには漢方薬の竜骨と同じ作用があります。竜骨は臓腑の脾に配当されます。
ある大学で統合失調症の患者さんに牡蠣肉エキスを服用させ改善した例が発表されています。

他に心臓神経症や不眠症、更年期障害なども五志の憂に入ります。

五志の憂に使われる漢方薬をご紹介

非常に多種の漢方薬があります。特徴的な一部の漢方薬をご紹介します。

桂枝加竜骨牡蠣湯

脱毛や夢精が特徴です。
昔の漢方の書物に、SEXの夢を見たら桂枝加竜骨牡蠣湯が合うと言う記述があります。私もこれを参考に神経症の患者さんを治したことがあります。
本来は竜骨の証だと思われます。

柴胡加竜骨牡蠣湯

実証で便秘がちな人で、多夢の人が多いです。柴胡剤ですが右脳派です。

桂枝加竜骨牡蠣湯と名前が似てます。しかし柴胡加竜骨牡蠣湯の裏処方は柴胡桂枝乾姜湯に成ります。

竜骨も牡蠣も同じミネラルですが

牡蠣は腎に属し、証の特徴は臍上の動悸です。
竜骨は脾に属し、証の特徴は臍下の動悸です。

奔豚湯

奔豚とは、走り回る豚が下腹部から胸に突きあげてくる感じと言われます。
下腹部より激しく気が上昇し、心下や胸に痞え苦しく、身体をブルブル振るわせる発作です。

苓桂甘棗湯証にも奔豚と似た症状がある事があります。

半夏厚朴湯

咽中炙臠は、喉の中に炙った肉の様な物、焼肉があると訴えます。
梅核気は、梅の種が喉の中にあると訴えます。
両方ともヒステリー球と言われる神経性食道狭窄症の症状です。

不安発作がある事があります。
半夏厚朴湯証は、考えている事の三分の二が思い込みだとも言われてもいます。

抑肝散

怒りやすい、短気、イライラ、癇癪持ちに対する漢方薬です。
子供の疳の虫に使ったり、最近ではご年配の痴ほう症に効果があると学会発表された薬方です。

特徴は左腹直筋が緊張しています。また左腹部大動脈上に動悸があります。

甘麦大棗湯

生あくびが多いです。理由なく涙したり、悲しんだりします。
自分をコントロール出来ない場合に適応します。

加味逍遙散

逍遙散に二味の漢方薬を加味したのが加味逍遙散です。

名前の由来になった逍遙とは、行ったり来たりウロウロする事の意味です。
逍遙熱とは熱と寒が行ったり来たりするの意味です。
背中がカァーと熱くなったり、逆に冷水を流されたように背中に冷感を感じる状態です。
暑くて一枚上着を脱いだら、暫くすると寒くなり、また上着を着たりします。

加味逍遙散証は、症状を紙にいっぱい書いてくる人も多いと言われます。

甘草瀉心湯

寝言や寝ぼけが多いタイプです。
瀉心湯は心を瀉するスープである湯の意味です。

交泰丸

不眠症に対する漢方薬の頓服です。
入眠前にイライラする人に頓服で飲ませます。
入眠三時間前に服用し、眠れない時は入眠前にも服用します。

黄連3広南桂枝1.5を蜂蜜で丸剤とします。

柴胡桂枝乾姜湯

更年期障害に使用することが多いです。
特徴は頭汗と言われる首から上の発汗です。
気鬱を伴い、中年以降の女性に多い傾向があります。

女神散

産後よりの神経症に使用します。女神散証は女神散じゃないと症状の改善や体質改善が出来ません。

猪苓湯

尿路不定愁訴に使うことがあります。

昔、大塚敬節先生が風邪を猪苓湯で治した症例を聞いたことがあります。葛根湯も猪苓湯も同じ膀胱経に属します。
東洋医学は病名漢方、病名鍼ではないです。私達への戒めかもしれません。

桃核承気湯

統合失調症の女性のファーストチョイスです。
男性は柴胡加竜骨牡蠣湯がファーストチョイスになります。