2020年6月20日
一物全体
ライオンは獲物を仕留めると、まず内臓を食べるそうです。肉食動物は草は食べませんが、他の動物が食べた草を他の動物の内臓を通して食べています。
漢方では一物全体と言う食養生の基本的考え方が有ります。魚は頭から尻尾まで食べます。小魚を頭ごと内臓まで食べるのが理想です。食養生では肉質だけ食べる事を嫌います。内臓ごと食べられるのは、サンマより小さな魚になります。
魚を食べる食養生
東洋医学で魚の食養生として最も大事な部分は、頭です。栄養学的にはEPA、DHAの不飽脂肪酸が多い部分です。大事なお客様にお出しするのは、お頭付きです。次に大事な部分は尾ビレ、魚が泳ぐ時に最も使う筋肉である尾ビレ。同時に背ビレのエンガワ部分です。3番目に大事なのは、魚の皮です。最後が魚肉です。魚肉だけ食べていませんか。
魚の尾びれと同様に、焼き鳥のボンジリ。魚の皮と同様に、キュウリやカボチャ、リンゴ等の野菜、果物の皮も大事だと考えています。
形象薬理学と入薬
漢方の薬理学は形象薬理学と呼ばれています。形象薬理学の中に入薬と言う考え方があります。根は、水分や栄養分を集め地上茎へ送ります。漢方では上昇の気の効能があり、体力をつけ、気力を付けます。
葉は、水分、酸素を蒸散します。漢方では散の効能があり、水分貯留を発散し、精神的な気鬱を発散します。
芽は、新芽を出します。漢方では発泄の効能があり、身体に溜まったものを外に出す働きです。皮膚病やニキビの時に、新芽やナッツの発芽部分を食べると症状が吹き出し酷くなることもあります。
一物全体では、全ての動植物が捨てる箇所は無いと考えます。沖縄料理でミミガ、豚の耳介。テビチ、豚足を食べられた方も多いと思います。ホルモンなども然です。また一つの動植物を全て食べるだけでなく、根っこ物の人参を食べたら、葉物のホウレン草も実物のトマトも食べる。それでも一物全体に近くなります。
身土不二。代々受け継いだ食習慣
春に山の植物が芽吹き、いっせいに新芽を出します。その新芽を食べる時期に合わせて小鹿達は生まれてきます。冬の緑が無くなる時期は木の皮も食べます。しかし春はシカ達は新芽を探して食べます。親から子へ何代も遺伝子を繋ぎ、今の食生活が出来上がります。
魚を食べると、日本人が魚を代謝するのに要する時間は24時間だそうです。欧米人は72時間掛かるそうです。肉を食べると、日本人は肉を代謝するのに72時間掛かり、欧米人は24時間で代謝するそうです。
親から子へ
代々受け継いできた食習慣で私たちの身体は出来上がっています。東洋医学では、これを身土不二と言います。魚を食べる海辺には、魚毒を消す柑橘系が出来ます。肉を食べる内陸では、肉の毒を消すリンゴが出来ます。
暑い夏には身体に潤いを付ける果物が出来ます。昔の人の1日の移動距離は60キロメートル。自分の60キロメートル以内の食材を食べるのが基本です。季節に応じた食材を食べ、自分の身体造りをしていきます。
体温コントロールと身土不二
地球儀で見ると、日本は小さい島国です。日本の気温は、九州では夏は30度以上になります。北海道の夏は20度台です。また冬は北海道はマイナス10度近くになり、冬でも九州は5度前後です。年間の平均気温を見ると、九州では20度近く、北海道は10度以下になります。この小さい日本でさえ、北海道と九州では大きく気温が異なります。
私達人間は恒温動物です。常に36度前後の体温を保たなければ生きていけません。体重50キログラムの人で、バケツ5杯分の水の温度を上げる熱量が必要となります。夏の気温30度では、5、6度の体温上昇で体温維持ができます。冬の気温5度では、30度以上の体温上昇の必要性が生じます。
体温は食事で作られる
この熱量は食べ物で出来ます。体温だけを考えても、九州と北海道が同じ食事では生きていけません。冬と夏が同じ食事でも、健康に生きていけるはずがありません。熱量が異なるのに同じ食事、生活を続けると、まず身体に歪みが出来ます。それが病となります。
東洋医学の古典、黄帝内経素問の四気調神大論篇第二に季節ごとの養生が記載されています。「春は発陳。冠、帽子を取り発散し体温を下げ」、「秋は容平。冷えを受けないように」と養生が書かれています。 この四気調神論の春を朝、夏を日中、秋を夕方、冬を夜に読み替えると、1日の養生が出来ます。同時に九州では春、夏、秋を、北海道では春、秋、冬の養生を重要視すると、東洋医学の養生になります。
身土不二。季節に合わせて
身、小宇宙は自分自身。土、大宇宙は自分の住んでいる土地、地域です。不二は別々に見える2つの物は、実は一つであるの意味です。自分自身を取り囲む大宇宙は、自分の生きている環境を現します。土地、地域だけでなく、季節や、細かく考えると1日の朝昼夜の気温や湿度、環境も含まれます。
夏は陽気が身体に溜まります。陽気を発汗にて出すため散、発散の働きの葉野菜を多く摂ります。夏は散の食養生です。冬は陽気が不足します。陽気を漏らさないために、散の葉野菜を控えます。冬は収の食養生です。
東洋医学では春、夏、秋、冬の大宇宙である季節ごとに、小宇宙は生、長、収、蔵と変わると考えています。春、生は新芽、若葉を摂り。夏、長は苦い、アクのある涼の食材、散の葉野菜、潤の果実を摂ります。秋、収。冬、蔵は根物、種物、穀類を中心とします。
季節に合わせて食材の比率を変えます。旬の物を摂っていれば問題はありませんが、旬以外の食材は気を付けます。食養生は自然に従う事、自分の本能を磨き従うことです。
朝食での糖質
東洋医学では日が沈むと陰中の陰の時間帯に入ります。腎の臓、水の時間帯です。
食物ではミネラルの多い海藻を代表とした海産物、ミネラルの多い黒胡麻などが該当します。私達の身体は、朝方に摂ったミネラルは吸収率が悪く、日が沈んでから夕方以降に摂ったミネラルは吸収率が高くなります。
時間帯で変化する身体
飲み歩いた後のラーメン、美味しいですね。夜遅くに油濃い物を食べた翌朝、口の中が気持ち悪い経験をした方も多いと思います。肝臓の働きは午前中が活発になります。肝臓で造られ油脂の消化液である胆汁は夜中の12時を過ぎると分泌が減少していきます。
身体は1日中、同じ動きをしているわけではありません。男性の髭は昼前に伸びやすく、癌細胞は夜10時前後に盛んに分裂します。
覚せい剤のアンフェタミンをネズミに投与した実験があります。体重1キログラム当たり26ミリグラムのアンフェタミンを投与します。午前6時に投与されたネズミの死亡率は6.6パーセント、午前3時に投与されたネズミの死亡率は何んと77.6パーセントだったそうです。
アメリカの白人におけるアルコール服用後の血中濃度の実験があります。午前中にアルコールを服用させた場合、血中濃度は高くなります。しかし午後からアルコールを服用した場合、血中濃度は低くなります。同様にハツカネズミにアルコールを服用させた実験では、午前中は臓器に与える影響が強く、午後からは脳や行動、体温への影響が大きかったそうです。
同じ物を同じ人が食べたり飲んでも、時間帯により効能や身体への影響が変わります。漢方薬も種類により服用する時間帯で効果が変わっていきます。同じ東洋医学の鍼も打つ経絡により時間帯で効果が変わります。
野生動物は夜行性の動物を除き、朝方の食事量が多く寝る前の食事量は少ないです。インシュリンは糖質をエネルギー変換します。誰でも、インシュリンの分泌は朝方が多く夜は少なくなります。糖質、炭水化物を朝食で摂る理由があります。
食養生での砂糖
三白の害と聞かれたことがあると思います。玄米から精米した白米、イオン交換で造られた塩、サトウキビから精製された白砂糖の3つです。
実は砂糖は2000年以上前から漢方薬として使われています。膠飴と言われる砂糖です。粳米を麦芽で発酵して作った甘い自然糖です。小建中湯や大建中湯の構成薬味です。1日の薬用量は20グラムです。
もう一つの漢方薬に蜂蜜があります。八味丸や桂枝茯苓丸の構成薬味です。古くは岩蜜、白蜜を使用していましたが、入手が困難なため現在は蜂蜜を使用しています。岩蜜は蜂が岩に蜜を溜め長期間乾燥し岩場のミネラルが入り込んだ蜜です。蜂蜜の化石、或いは岩塩と思えば。
岩蜜は、蜂が岩に蜜を溜め長期間乾燥し岩場のミネラルが入り込んだ蜜です。塩に対する岩塩、蜂蜜に対する岩蜜です。写真は30年程前、ヒマラヤの中腹2000メートルにある大理にて手に入れた岩蜜です。表面には苔が生え一部蜂の巣が見えます。
缶コーヒーや野菜ジュースには大量の砂糖が入っていると言われています。日本人の平均的砂糖の摂取量は1日60、70グラムです。漢方薬の膠飴の薬用量は1日20グラムです。薬として使う3倍以上の砂糖を日本人は摂取しています。
砂糖の摂り過ぎは、腸内の悪玉菌を増やし腸内の炎症を高めます。腸内で異常発酵も生じます。悪玉菌からの排泄物は吸収され身体を巡っていきます。神経性疾患であるアルツハイマー病やパーキンソン病との関連が報告されています。免疫との関連も指摘され、妊娠中に甘い物を摂り過ぎると赤ちゃんがアトピー体質になり易いと言われています。
蜂蜜の働き
漢方の食養生では、黒砂糖は毒消し、白砂糖の副作用は吐き気になります。また糖尿病に使用する八味丸には蜂蜜が入っています。蜂蜜は潤の働きがあり、濃くなった血液濃度を下げ潤します。結果的に血糖値が下がると言われています。
当薬局では自然糖である蜂蜜や、ミネラル豊富な黒砂糖、メイプールシロップをお勧めしています。
砂糖、精製塩の中和
しかし白砂糖には、白砂糖で他で変えられない使い方があると思います。精製塩もそうです。
精製塩に不足しているのはミネラルです。海産物、海藻類や頭ごと内臓まで食べられる小魚類を摂ると不足を補充出来ます。
砂糖の害は、緑で少しアクや苦みのある野菜で中和されます。日本茶、パセリ、レタス、ホウレン草他。自然糖をお勧めしますが、食事を一工夫すると色々な使い方が出来ると思います。