2020年12月18日。写真は長崎県佐世保市、九十九島です。
奔豚病、漢方では
東洋医学には奔豚病と言う病態が有ります。漢方の古典、金匱要略には「奔豚は気上がって胸を衝き、腹痛、往来寒熱す。奔豚湯之を主る」と有ります。往来寒熱は少陽病の熱型の特徴ですので、奔豚病の病位は少陽病だと解ります。
奔豚とは
奔豚は腎積とも言います。腎、精力、下半身、体力他が弱り、腎の気が滞り積もった状態です。その腎積が少腹、下腹部から激しく上に付き上がり、心下、鳩尾や胸が痞え苦しく、呼吸も出来ない状態が奔豚です。豚が激しく走り回り、下腹部から胸に付き上がってくる様と表現されます。
奔豚は心悸亢進も
西洋医学では発作性心悸亢進、不整脈、ヒステリー発作などの病態です。奔豚病は金匱要略の奔豚湯の適応となります。腎積とは異なりますが、非常に似ている発作症状に苓桂甘棗湯証が有ります。
疾病逃避
疾病逃避と言う病態があります。精神的な問題が原因で現れる症状です。
疾病逃避とは
嫌な事や自分にとって不利益な事があると起きる症状です。無意識に病気に逃げ込んでしまいます。無意識のため仮病とは異なります。学校に行く前に腹痛がする。嫌な事があると朝が起きれない。様々な症状が出ます。
疾病逃避の症状
肉体的な異常が無いのに症状が強く現れます。特徴的な症状は知覚障害や運動障害などです。痛みや手足の麻痺、痺れなどです。これらの症状は一過性で、嫌な事や不利益な状態が解消すると症状も消失します。
仮病ではないので、原因である嫌な事を解消出来るよう考えないといけません。
疾病利得
疾病逃避が生じると、自分に不利益な状態から無意識に病気に逃げ込むことが出来ます。
自分に都合の良い状態
それにより自分の嫌な事や不利益な状態から逃げ出せます。疾病逃避による症状が酷ければ酷い程、周囲からは心配をされます。同情も集められます。自分が不利益な状態から、自分に都合の良い有利な状態が出来上がります。これが疾病利得です。
無意識に起こす
大事なのは決して仮病ではないという事。疾病逃避も疾病利得も無意識に行われます。実際に痛みや痺れなどの症状が有ります。誰にでも起きうる病態です。
本人は無意識のため疾病逃避、疾病利得を非難することはできません。実際に症状が有りますので否定も出来ません。疾病逃避、疾病利得を起こさざるをえなかった原因に向かい合い、解決する事です。
見栄を張らない
性格的な傾向として、虚栄心が強かったり、想像力が旺盛、喜怒哀楽が激しい傾向の人に疾病逃避、疾病利得は出やすい事が判っています。見栄を張らない生き方をするのも一つの解決方法に成ります。
仮面うつ病
マスクドデプレッションとは仮面うつ病の事です。仮面を被ったうつ病ですので、ご本人がご自分の精神症状、うつ状態を自覚していないうつ病です。
自分も周囲も気づかない。うつ病
例えば会社などで人も羨む出世をし、本人も喜んでいます。周りからも祝福されています。そういう人が突然、自殺したりすることがあります。昨日までお元気だった方が、会社内の責任の増大を感じ自殺します。仮面うつ病、マスクドデプレッションが疑われる例です。
特徴は日内変動
うつ病は、不安感、絶望感、自己卑下、罪悪感、行動力の低下などネガティブなマイナスの思考が多くなります。
特徴的な症状は日内変動です。日内変動は午前中はやる気が無く調子が悪いのですが、夕方以降は調子が良くなる病態です。1日のリズムを作るためにメラトニンによる生体内時計のリセットも必要です。
漢方ではうつ病を東洋医学の五志の憂と捉え治療をしていきます。
五志とは
黄帝内経素問の陰陽応象大論第五に、人にもまた五臓が有って五つの精神的な働き、即ち、肝は怒、心は喜、脾は憂、肺は悲、腎は恐の感情を生じるものである。と記載されています。これが五志です。
東洋医学、漢方では患者さんの怒り、喜ぶ、憂う、悲しむ、恐れるなどの感情で、その臓腑を考えます。その患者さんの五志の臓腑に配当される漢方薬にて患者さんの精神的な状態を改善させることがよくあります。五志は治療方針を作る一つの情報になります。
一つ気を付けないといけないのは喜ぶの感情です。何も無いのに笑ったり喜んだりする状態です。自分の気持ちをコントロールできない状態と考えた方が良いかもしれません。喜ぶの文字に捉われると理解出来ないかもしれません。五色では心に配当される大棗の適応になります。処方では甘麦大棗湯などです。
五志の憂の意味
五志の怒、喜、憂、悲、恐が異常に強くなった状態です。誰でも腹が立つことがあれば怒ります。悲しむこともあります。一時的な感情で五志は変化します。しかし治療の対象にはなりません。
五志の憂が原因で体調が不調になる場合、漢方治療対象となります。また一時的な感情の変化でなく、慢性的に五志の憂の異常が続く場合も治療対象になります。
五志の憂のお病気
五志の憂には様々な病態があります。
ノイローゼなどの神経症
苦労症の人に多い疾患です。肉体的には軽微、或いは異常が無いのに、症状が強く現れる事が多いです。
ノイローゼの一種であるヒステリー
ヒステリーはギリシャ語で子宮の意味です。虚栄心が強く、我が儘、想像力が逞しく、空想的、喜怒哀楽の激しい人に多いです。
症状に知覚障害や運動障害が多いです。漢方治療での改善スピードは出足が遅いです。しかし途中より急速に改善する傾向があります。また疾病逃避、疾病利得などの特徴があります。疾病逃避、疾病利得は心の病をご参考に
うつ病
患者さん本人が精神症状を自覚していないことがあります。特徴として日内変動があります。午前中は調子が悪いです。夕方になると調子が良くなるパターンです。症状は行動力の低下や不安感、絶望感、自己卑下、罪悪感などです。
回復期に衝動的な自殺願望が出たりもします。マスクドデプレッションと言われる仮面うつ病も含まれます。
統合失調症
症状の特徴として独り言や空笑い、突然に興奮したり逆に黙り込んだりします。被害妄想が出ることもあります。幻覚、幻視、幻聴などの特徴があります。
初期の症状は神経症と同じ症状が出ることがあります。牡蠣肉エキスには漢方薬の竜骨と同じ作用があります。竜骨は臓腑の脾に配当されます。ある大学で統合失調症の患者さんに牡蠣肉エキスを服用させ改善した例が発表されています。
他に心臓神経症や不眠症、更年期障害なども五志の憂に入ります。
五志の憂に使われる漢方薬をご紹介
非常に多種の漢方薬があります。特徴的な一部の漢方薬をご紹介します。
桂枝加竜骨牡蠣湯
脱毛や夢精が特徴です。昔の漢方の書物に、SEXの夢を見たら桂枝加竜骨牡蠣湯が合うと言う記述があります。私もこれを参考に神経症の患者さんを治したことがあります。本来は竜骨の証だと思われます。
柴胡加竜骨牡蠣湯
実証で便秘がちな人で、多夢の人が多いです。柴胡剤ですが右脳派です。桂枝加竜骨牡蠣湯と名前が似てます。しかし柴胡加竜骨牡蠣湯の裏処方は柴胡桂枝乾姜湯に成ります。
竜骨も牡蠣も同じミネラルですが
牡蠣は腎に属し、証の特徴は臍上の動悸です。竜骨は脾に属し、証の特徴は臍下の動悸です。
奔豚湯
奔豚とは、走り回る豚が下腹部から胸に突きあげてくる感じと言われます。下腹部より激しく気が上昇し、心下や胸に痞え苦しく、身体をブルブル振るわせる発作です。
苓桂甘棗湯証にも奔豚と似た症状がある事があります。
半夏厚朴湯
咽中炙臠は、喉の中に炙った肉の様な物、焼肉があると訴えます。梅核気は、梅の種が喉の中にあると訴えます。両方ともヒステリー球と言われる神経性食道狭窄症の症状です。
不安発作がある事があります。半夏厚朴湯証は、考えている事の三分の二が思い込みだとも言われてもいます。
抑肝散
怒りやすい、短気、イライラ、癇癪持ちに対する漢方薬です。子供の疳の虫に使ったり、最近ではご年配の痴ほう症に効果があると学会発表された薬方です。
特徴は左腹直筋が緊張しています。また左腹部大動脈上に動悸があります。
甘麦大棗湯
生あくびが多いです。理由なく涙したり、悲しんだりします。自分をコントロール出来ない場合に適応します。
加味逍遙散
逍遙散に二味の漢方薬を加味したのが加味逍遙散です。
名前の由来になった逍遙とは、行ったり来たりウロウロする事の意味です。逍遙熱とは熱と寒が行ったり来たりするの意味です。背中がカァーと熱くなったり、逆に冷水を流されたように背中に冷感を感じる状態です。暑くて一枚上着を脱いだら、暫くすると寒くなり、また上着を着たりします。
加味逍遙散証は、症状を紙にいっぱい書いてくる人も多いと言われます。
甘草瀉心湯
寝言や寝ぼけが多いタイプです。瀉心湯は心を瀉するスープである湯の意味です。
交泰丸
不眠症に対する漢方薬の頓服です。入眠前にイライラする人に頓服で飲ませます。入眠三時間前に服用し、眠れない時は入眠前にも服用します。黄連3広南桂枝1.5を蜂蜜で丸剤とします。
柴胡桂枝乾姜湯
更年期障害に使用することが多いです。特徴は頭汗と言われる首から上の発汗です。気鬱を伴い、中年以降の女性に多い傾向があります。
女神散
産後よりの神経症に使用します。女神散証は女神散じゃないと症状の改善や体質改善が出来ません。
猪苓湯
尿路不定愁訴に使うことがあります。
昔、大塚敬節先生が風邪を猪苓湯で治した症例を聞いたことがあります。葛根湯も猪苓湯も同じ膀胱経に属します。
東洋医学は病名漢方、病名鍼ではないです。私達への戒めかもしれません。
桃核承気湯
統合失調症の女性のファーストチョイスです。男性は柴胡加竜骨牡蠣湯がファーストチョイスになります。