2020年9月5日。写真は中国成都、杜甫草堂です。
日常生活で目にするもので漢方薬として使用されるものが多数あります。
琥珀も漢方薬
ジュラシックパークの映画で、琥珀の中の蚊の化石からDNAを抽出し恐竜を創りました。宝石としても美しい琥珀コハクです。
琥珀は漢方薬として使われています。琥珀は古代の松の樹脂の化石です。燃やすと松脂マツヤニの焼ける臭いがします。
琥珀の効能
漢方では利水、活血、安神作用があるとされています。不眠、神経症、動悸、痙攣、排尿障害、無月経などに使用されます。
琥珀の代用
松葉にも松脂が入っています。松葉は仙人食とも言われます。昔のお城には籠城の際の非常食として松を植えたそうです。また松明の原料にもなります。
漢方ではアカマツの葉を薬味として使用します。風湿を除くと言われています。民間療法では、高血圧、脳卒中後遺症などにも応用されています。また琥珀の代用としても使用できます。
食物繊維と漢方薬の芒硝
食物繊維は水溶性繊維と難溶性繊維の不溶性に分けられます。難溶性繊維は野菜を増やすと容易く摂ることが出来ます。水溶性繊維は完熟した果物や海藻類に多い傾向があります。水溶性繊維は腸内に潤いを付ける働きがあります。
食物繊維は腸内の掃除
食物繊維は腸内の掃除をすると考えると良いかもしれません。腸内の汚れを取り、腸内細菌叢を正常化します。両手いっぱいの生野菜は、火を通すと片手にのる量になります。多くの野菜を摂るには火を通して食べた方が効率的で多く食べられます。
漢方薬に水溶性繊維と同様の働きをする生薬
芒硝、硫酸マグネシウム。朴消、硫酸ナトリウムです。
500年ほど前、漢方薬の薬理学の本草学書である本草綱目を書かれた李時珍が、芒硝と朴消を同じ物と混同してしまいました。日本では江戸時代にオランダから入ってきた硫酸ナトリウムを芒硝と間違えました。その後、日本では長く朴消を芒硝として使用してきました。
聖武天皇死去に際し作られた正倉院に1200年以上前の芒硝が残っています。硫酸マグネシウムです。芒硝と朴消は腸内を潤し、便を柔らかくします。その働きは水溶性繊維と似ています。
腸内や排便に関しては、どちらも同じような働きですが、糸練功で鑑別すると朴消は精神神経症に対して効果が優れているようです。
小豆も漢方薬
アズキは赤飯やアンコとして日本の和菓子や食文化に溶け込んでいます。つぶ餡、こし餡。和菓子好きには堪らないものがあります。
実は小豆も赤小豆と言う漢方薬です。漢方薬として渡ってきた小豆が日本の食文化の中に溶け込んだのでしょう。
日本だけ小豆を食用
以前、広州中医薬大学の教授達と淡路島で瀬戸内海の海産物を食べ、飲んだことがあります。その時に日本のアンコの話になりました。中国の教授たちは「赤小豆は中国では漢方薬で食用にしません」と、日本で小豆が食用に成っていることに驚かれていました。私は逆に中国では小豆が食用に成っていない事に驚きました。
赤小豆の効能
赤小豆は漢方では、清熱解毒、利水の効果があります。浮腫や腎炎、黄疸などに使用します。五色から心に配当されます。黄連や牛黄などと同じ心に属します。黄連や山梔子などと同じ清熱、利水の効果です。漢方では新鮮な赤小豆が良いとされ、年を越したものは使いません。
民間療法では、赤小豆を煎じて塩砂糖抜きで炊き、煮汁を飲みます。二日酔い、便秘、脚気、母乳が少ない時の催乳などに応用されます。
マムシも漢方薬
マムシは漢方では反鼻と言う名前で使われます。五八霜とも呼ばれます。昔は五十八匹を紐で縛り、重さで一括りに売っていたので五八霜とも言われます。
マムシの骨と骨の間の肉部分スペアリブに効果があると言われます。滋養強壮として有名です。また肝部分を乾燥したのが蛇胆です。マムシを使った代表的な処方に反鼻交感丹があります。健忘、抑うつ症状に使われます。
マムシの内臓
マムシは虫も食べています。虫は漢方では陳旧の瘀血に使用し作用が強いと考えています。マムシを生け捕りしたら、一升瓶に水を入れ一升瓶の口をネットで覆います。その中で1ヶ月ほど生かしますと食べた物を吐き出します。内臓を抜いた反鼻は問題はありませんが、内臓入りの場合はマムシの内臓に残っている食べた物の残留が問題になります。
マムシの漢方薬
伯耆の国、鳥取県から島根県の伝承薬に伯州散と言う和漢薬があります。吉益東洞が使用し効果が高かったため、外科倒しと言われた内服薬です。古方派の漢方家が好んで使用しました。傷口の治りが悪い時に内服すると、見る見る内に傷口が盛り上がり治ります。
伯州散の作り方
津蟹、川ガニ、上海ガニ。代用でモグラの黒焼きの土竜霜を使用することもあります。それに反鼻、マムシ。鹿角、鹿の骨化した角。以上、3つを素焼きの壺に入れ黒焼きにします。出来あがった黒焼きは等分で混ぜ内服します。
漢方では黒焼きの事を霜と言います。動物薬によく用いられる処理の仕方です。
伯州散を外用へ
肉芽形成が不良の場合に効果があります。私が若い頃は、痔の手術をして肉芽形成が遅い方に内服を勧め喜ばれていました。また紫雲膏と混ぜ外用しても効果が高いです。ただ外用の場合、治った後に黒焼きの炭が皮膚の中に残り少し黒ずみます。
伯州散は代謝を活発に
炎症が強かったり活動性の疾患には禁忌です。私は伯州散を服用後、お酒を飲み、心臓が飛び出そうになった経験があります。反鼻の働きかもしれません。
また猿頭霜、猿の頭の黒焼きを使うべきところ、代用で伯州散や土竜霜を使った症例もあるようです。
陰陽と補瀉
漢方の治療法に補瀉と言う概念が有ります。陰証に対し補い、陽証に対し瀉します。補うか瀉すか。正反対の治療法になります。
虚実とは
一般に、虚証は体質、体力的に衰えている。実証は体質、体力的に充実していると解釈される場合が多いです。
しかし東洋医学では本来、虚とは正気の虚を指し、実とは病邪の実を指します。正気とは身体を守り治す能力、病邪とは病の重症度と考えれば分かりやすいです。
補瀉とは
補瀉に関しても、補とは虚証を補う免疫力を上げ守る、瀉とは実証を瀉す、攻めると勘違いされています。
東洋医学の古典、黄帝内経、素問の陰陽応象大論篇第五に「即ち、病の陰陽、虚実、寒熱を審らかに診察し、補瀉を行うのであります」と記載されています。補瀉とは、虚実だけでなく、陰陽、寒熱をも含めた全体像に対する治法です。虚証、実証だけの狭義の治法ではありません。
峻補、峻瀉の漢方薬
漢方薬の中に、峻補と呼ばれる紫荷車、鹿茸、蟾酥。峻瀉と呼ばれる麻黄、大黄、芒硝、竜胆などが有ります。これらの漢方薬は非常に速い効果が期待される漢方薬味です。
大補、大瀉の漢方薬
次に効果が早い漢方薬は、大補と呼ばれる人参、当帰、黄耆、山茱萸、芍薬、膠飴、大棗。大瀉と呼ばれる桃仁、枳実、桔梗がなどが有ります。
これらの峻、大を用い効果が遅い場合、漢方薬が合っていない可能性もあります。一つの目安になります。
気血水
東洋医学では病気の原因を気血水の3つに分けます。気毒、血毒、水毒です。その毒に対する漢方薬が気剤、血剤、水剤です。
気血水剤の成分
気剤は精油成分と言う揮発性の成分が含まれます。良い香りがします。血剤は油性で、揮発性以外の油性の成分が多くなります。水剤は水に溶ける水性の成分が中心となります。
気剤とは
漢方薬の煎じ薬を飲む時に、気剤はまず鼻粘膜から香りとして入ります。鼻粘膜と胃粘膜で最も早く吸収されると考えられます。
水剤とは
次に水剤です。胃は水性ですので、胃粘膜から吸収されると考えられます。胃と腸で吸収されていきます。
血剤とは
最後に、血剤です。胃から十二指腸を過ぎると胆汁の界面活性作用の働きで腸は水性と油性の混ざった水溶性に成っています。血剤は油性成分のため最後に腸で吸収されます。
漢方薬は気剤、水剤、血剤の順番で吸収されるのが分かります。
最も大事な気剤の香り
東洋医学では気の異常により、水、血が動かされ病になると考えています。気の異常による病で、まさに病気です。
病は気毒から始まる
全ての病には気毒が存在します。これが病のスタートだからです。そして血毒の病か水毒の病に分かれていきます。
気剤を詳しく
当然ですが、すべての漢方薬はこの気毒に対する気剤が入っています。気剤は3種類に分かれます。
- 上気に対する気剤
- 気滞、気塊に対する気剤
- 気虚に対する気剤
上気と気滞、気塊には揮発性の精油成分が必要です。
気毒に対する養生
食養生では葉野菜や香りのするミント、紫蘇、大葉、ワサビ、胡椒などを摂ると良いです。また運動などで発汗、発散すると自律神経のアセチルコリンが分泌され、上気や気滞は改善されていきます。
気虚に対しては、蒲陶などの甘い果物や根菜類、穀物を摂ると良いです。気虚にはアク、苦みの少ない食材が合います。玄米は禁止です。
気剤の俢治
気剤には精油成分の新鮮な精油を使う生薬、薄荷や蘇葉等が有ります。また、わざと日光に当てたり、或いは長期間保存し精油を飛ばし使う生薬、陳皮等が有ります。
このような煎じ薬原料の下ごしらえを修治と言います。修治は精油に毒があるかどうかで変わります。修治は、効果を上げるために行う場合と毒消しのために行う場合があります。
新薬の利尿剤と、漢方の利水剤
漢方薬には腎炎や浮腫、腹水などに使用する利水剤と呼ばれる薬味、漢方薬があります。
利尿剤の作用
化学薬品の利尿剤の働きは様々です。腎臓の糸球体で濾過された尿に対し、尿細管内の浸透圧を上昇させる事により再吸収を防ぎ利尿します。或いはナトリウムや塩素の再吸収を阻害することにより水分の再吸収を抑え利尿します。或いは副腎皮質から分泌される硬質コルチコイドの抗利尿ホルモンのアルドステロンに拮抗することにより利尿したりと様々な利尿作用があります。
漢方の利水剤
漢方薬の利水剤の代表的な薬味は、茯苓、白朮、半夏、木通、杏仁、細辛、防已、等が有ります。これらを使った代表処方が五苓散や防已黄耆湯、当帰芍薬散などです。
利尿剤と利水剤の違い
化学薬品の利尿剤は誰が服用しても尿の回数、量が増えます。漢方薬の利水剤は、身体の中に余分な水分がある人だけ尿が増えます。身体の中に余分な水分が無い人は尿が増えません。その為、漢方では利尿剤ではなく利水剤と読んでいます。
これも漢方薬の正常化作用の一つです。
怪病は水毒
漢方には「怪病は痰として治せ」「水は怪なり」の言葉が有ります。色々な治療をして治らない病、治療をすると様々な症状が出る病などは怪病の場合が有ります。このような時は水毒の治療をすると改善するとの教えです。
水毒の性質
水は丸い容器に入れると丸くなり、四角の容器に入れると四角になります。色んな形に変化するのが水の特徴です。水毒の病は、掴み所が無いのも特徴となります。
水毒と燥湿
水毒は燥と言う水分の減少と、湿と言う水分の増加に分かれます。身体全体の燥湿ではなく部位ごとの燥湿が重要になります。
汗をかけば体表は湿となり、汗に水分を取られた血管内は燥となります。五苓散証や白虎湯証は、肌は汗ばみ湿の状態。しかし血液中の水分は減少し脱水し燥の状態になっています。故に血液が燥のため反射神経で口渇を訴えます。