2020年8月22日。写真は阿蘇の長者原、タデ原湿原です。
東洋医学は体表解剖学
東洋医学の解剖学は独特です。西洋医学と異なり、解剖した臓器を特定せずに身体の表面に出てきた反応で身体の内部を診ていきます。例えば、肝経は足の親指内側の爪の根元の太敦から始まり、頭のてっぺんの百会まで伸び、督脉と繋がります。この肝経に異常が出ると、東洋医学では足の厥陰肝経の病と診断します。
東洋医学では、身体の表面に出てきた状態を捉え診断をしていきます。そのため体表解剖学と呼ばれています。
陰陽と小宇宙
「大宇宙の中に小宇宙、小宇宙の中に更に小宇宙がある」の東洋医学の理論通り、手掌にも小宇宙が出来ていると考えます。糸練功では手掌にて全身を診ていきます。
右手掌の上焦は肺、大腸。中焦は脾、胃。下焦は心包、三焦。左手掌の上焦は心、小腸。中焦は肝、胆。下焦は腎、膀胱の反応が出ます。
六部定位脈診と言う東洋医学独特の脈診が有ります。左右の手首の内側部分で寸、関、尺を診ます。寸が手掌の上焦、関が中焦、尺が下焦に該当します。ここでも全身を診ていきます。
小宇宙は腹部にも有ります。腹部でも全身の経絡の状態が出ます。また顔面、耳の中、足の裏にも全身の反応があり、それぞれが小宇宙を形成しています。足の裏は華陀の足心道が最初だと言われています。足の裏に全身の反応点があり、マッサージで全身の治療ができます。
小宇宙は陰面に
これらの小宇宙は東洋医学では陰面と言う4本歩行の動物だった頃、太陽の影になる部分、例えばお腹など、又は陰陽面に出る事が多いです。小宇宙は臓腑、経絡の反応点、診断点であり治療点にもなります。
東洋医学の臓腑
東洋医学の臓腑と西洋医学の内臓とは異なります。幾つか例を挙げてみます。
膀胱
西洋医学の膀胱は尿を溜める臓器です。
東洋医学の膀胱では、病気と闘う最初の防衛反応を意味しています。膀胱は、月、身体の旁光。旁光とは火と火が交わる松明の意味です。身体に侵入してきた病邪の邪気、病気のエネルギーの火と、身体の正気である治癒力や免疫力のエネルギーの火が交わる。最初の防衛反応の場、機能です。それが東洋医学の膀胱の意味です。風邪の時に最初に服用する葛根湯は太陽膀胱経の漢方薬です。
肺
肺は西洋医学では呼吸器の肺です。
月は身体、市は物々交換の場。市は市場です。東洋医学の肺は、体外と体内を交換をする機能、状態です。外界と接する場を指します。外界と接している肺、鼻、皮膚など他が肺に該当します。
腎
腎は西洋医学では腎臓です。
月は身体、臣は大臣の臣。王の直属部下です。東洋医学の腎は、敵、病邪に攻められ、追い詰められ、王の周囲を守る直属の臣が闘わないといけない状態です。そこまで生命力、精力が衰えた肉体機能が腎です。
肝
肝は西洋医学では肝臓です。
月は身体、干は盾の意味です。東洋医学の肝は、王が自ら盾を持ち守らないといけない段階、機能です。病邪と闘う最後の状態です。
東洋医学の臓腑の意味
一般の方は東洋医学に触れ混乱します。東洋医学の臓腑を考える時に西洋医学の内臓の概念を捨てられないからです。五臓六腑の言葉も東洋医学の臓腑理論です。鍼灸で使用する経絡も東洋医学の臓腑理論。
東洋医学と西洋医学では、臓腑の意味が異なる事をご理解いただけましたか。
君火と相火
2200年前の馬王堆医学には五臓六腑の記述があります。その後400年経過し心包の臓腑が見つかり、黄帝内経では六臓六腑が完成しています。最後に見つかった臓腑が心包です。心包は相火の臓腑です。君火に対するのが相火です。
相火とは
心包の腑は三焦です。焦はコゲルです。炎症に当たります。
相火、心包三焦も君火、心小腸も熱が有ります。そこに焦が有れば相火です。焦が無ければ君火になります。非常に難しい概念ですが、例えば高血圧で体格が良く、顔が赤く、脂切った人の高血圧は相火です。同じ高血圧でも痩せて顏色が青白い人の高血圧は君火になります。
人参の君火と相火
薬用人参の帰経は脾の臓に配当されます。腹診の心下痞が特徴である様に心の臓、君火にも配当されます。最上級の人参は甘みが有り君火です。質の悪い人参は苦みが加わります。苦みは清熱、抗炎症作用が有りますので相火の働きが入ります。
同じ生薬でも質の良し悪しで君火と相火が変化します。
臓腑の君火と相火
臓腑においても腎の臓は君火と相火があります。他の臓腑も君火が強い臓腑、相火の強い臓腑などが有ります。君火、相火の概念が分かると患者さんの証の判定がやり易くなります。また漢方薬の質の良し悪しも分かるようになります。
難しく、皆様の興味が無いコラムを書いてしまいました。次からは分かりやすい興味のあるコラムを書きます。悪しからず。
東洋医学の自然治癒力
自然治癒力は誰でも持っている免疫力や回復力です。少し風邪気味かなと思っても自然に良くなったりします。それが自然治癒力です。
年齢が上がると紫外線に対する治癒力が落ちる
若い時は紫外線に当たってもシミもシワも出来ません。年齢が上がると紫外線により発生する活性酸素の影響を回復しずらくなり、シミとシワが出来るようになります。ご高齢の方でも、お尻にはシミ、シワが少ないのも紫外線が当たらないからです。
食養生では緑の野菜に清熱浄化作用があると考えています。夏に出来る少しアクがあり苦みの食材なども清熱作用があり紫外線の害を防ぐと考えられます。
勝復
自然治癒力の事を東洋医学では勝復と言います。黄帝内経難経七十五難に「制すれば即ち生化する」と勝復の仕組みが詳しく書かれています。勝復で生化できなかった場合が、相乗、反悔と言い完全な病となった状態です。
東洋医学の正常化作用
化学薬品の降圧剤を服用すると、誰でも血圧が下がります。化学薬品の血糖降下剤を服用すると誰でも血糖値が下がります。化学薬品の解熱剤を服用すると誰でも体温が下がります。
漢方薬の正常化作用
大柴胡湯と言う漢方薬が有ります。適応は、高血圧症、肝機能障害、胃炎、喘息、糖尿病、肥満など幅広く使われる漢方薬です。例えば、肝機能障害で大柴胡湯を服用すると肝機能は改善します。しかし血圧も血糖値も下がりません。糖尿病で大柴胡湯を服用すると血糖値は下がります。しかし血圧は下がりません。
白虎加人参湯と言う漢方薬が有ります。適応は、糖尿病、感染症の解熱、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、熱中症など幅広く使われる漢方薬です。例えば、糖尿病で白虎加人参湯を服用すると血糖値は下がります。しかし体温は下がりません。アトピー性皮膚炎で白虎加人参湯を服用するとアトピー性皮膚炎の炎症は治まります。しかし血糖値は下がりません。
漢方薬は正常化作用です。化学薬品の様な一方的な血糖降下や解熱作用、降圧作用は有りません。その患者さんの一番良い状態に正常化する働きです。
漢方薬の下薬
漢方の薬味は、上薬、中薬、下薬に分かれます。上薬は一生飲むと健康維持も出来る漢方薬。中薬は慢性病に使用し治ったら止める漢方薬。下薬は急性病に使用し治ったら止める漢方薬。と考えると分かりやすいです。
この下薬の中には、正常化作用ではなく化学薬品と同じように一方的な働きをする漢方薬が少数有ります。代表的な漢方薬では大黄などです。専門家にご相談、或いは助言をもらい下さい。
しかし殆どの漢方薬は正常化作用です。
アッ勘違い。漢方薬の働き
風邪をひきます。適応する漢方薬を服用します。身体が温まり発汗し風邪が良くなります。漢方薬が風邪の原因のコロナウイルスを殺したのでしょうか。薬理学的にウイルスを殺す漢方薬は無いと考えられます。では何故、風邪が漢方薬で治るのでしょうか。
漢方薬は貴方の免疫力を強めます
漢方薬は、血流を改善し身体を温め免疫力を上げます。ご自分の機能向上した免疫力が風邪のコロナウイルスと闘い殺しています。
がん癌細胞を直接的に攻撃する漢方薬などありません。漢方薬は貴方の免疫力を上げ、貴方の免疫力が癌細胞を退治しています。
人間は、白血球やナチュラルキラー細胞、マクロファージー、キラーT細胞などの免疫細胞。インターフェロン等のサイトカインである低分子タンパク質等の免疫の生理活性物質を持っています。漢方薬はこれらの免疫力を調整し活性化します。人間の治す力を上げ、自然治癒力を増すのが漢方薬、東洋医学です。
漢方薬はお病気を治していません。お病気を治そうとする貴方の身体を治しています。その為、食養生、生活の養生、心の養生が治療の重要な部分を占めます。「医は三分、食が七分」「漢方治療は三分、養生が七分」で、東洋医学は完成します。
体質改善は出来る
東洋医学では体質改善と言う言葉をよく使います。
遺伝子は変えられない
同じ親から生まれて喘息になる子とならない子がいます。同じ遺伝子DNAです。漢方で遺伝子DNAを変える事は出来ません。しかし喘息の出ない身体に体質改善することができます。
ホメオスタシス
人間の身体には、ホメオスターシス、生体恒常性という機能があります。健康を保つため、前の状態を保ち維持する機能です。これにより体温は一定、血圧も安定、血液のPHも一定、血糖値も一定に保たれ維持されます。
甘い物を食べると血糖値が上がりますが、ホメオスターシスにより血糖値は安定します。しかし何回も繰り返していると血糖値は上がった状態を続けます。ホメオスターシスが狂い血糖値の高い状態が維持され糖尿病になります。
これを変えるのが漢方の体質改善
人間の筋肉細胞は約3ヶ月で生まれ変わります。皮膚は28日、赤血球は120日、肝臓は1ヶ月で90パーセントの細胞が入れ替わります。骨も2年で入れ替わります。母細胞が分裂し娘細胞が出来ます。母細胞は代謝され、脂溶性の代謝物は便へ、水性の代謝物は尿に排泄されます。
同じように見えますが、3ヵ月前の私達の肉体は物理的には存在していません。私達の肉体は、3ヶ月の間に食べた食事により出来ています。生まれ変われるのです。食べたもので出来た肉体。食養生が大事です。
漢方の体質改善も3ヶ月を1クールと考えています。漢方薬服用による影響を受けた細胞分裂を、何回、何クール繰り返すかで治療期間が決まります。