漢方薬の剤形

東洋医学理論

2020年9月10日。写真は吉野古道です。

変遷する生薬原料

私達の漢方薬局には、漢方薬原料は生薬で仕入れます。

原料生薬の形状

原料の形は、姿、刻み、末の3タイプで納入されます。

姿は生薬その物の原型です。生薬の特徴が分かりやすい原型のままです。

刻みは、姿を刻んだ物です。刻み方で丸切り、角切り、寸刻みなど生薬ごとに異なります。
生薬の原型が少し残り、スカや色など質の違いが分かりやすいです。

末は更に細かく粉末状にした生薬です。この段階まで加工すると味と色、香りでしか質の良し悪しが分からなくなります。

形状で異なる原料の質

質の観点から行くと、姿が最も良く、刻み、末になるに従い質が落ちてくるのが一般的です。エキス剤は原料生薬の質は推測しかできません。

時代で変わる質

30年前、質の悪い生薬も確かに市場に有りました。最高品質の生薬も有りました。
時代が変わったのでしょうか。現在、質が悪く使いたくない生薬が市場に多く出ているように感じます。

治せない時、自分の腕が未熟なのか、漢方薬の質が悪いのか。
漢方薬の責任にしないように、漢方薬の質は言い逃れが出来ないものを選びます。

便利なエキス剤

漢方薬には煎じ薬と、携帯に便利なエキス剤が有ります。

エキス剤の作り方

エキス剤を造るには、漢方抽出液、煎じ薬から溶媒、水分を気化させ濃縮する必要があります。そのため減圧濃縮、噴霧乾燥、凍結乾燥していきます。
その後、賦形剤の乳糖やデンプンを加えエキス剤が出来あがります。

気剤が抜けるエキス剤

漢方薬は生薬ごとに、本来は煎じる時間が異なります。
エキス剤の場合は生薬ごとの抽出時間ではなく、同一の抽出、煎じる時間となります。

また気化させる段階で、最も重要な揮発性の高い気剤が飛んでしまい殆ど残りません。
そのため、気剤の入っていない水剤、血剤中心のエキス剤が出来あがります。

またエキス剤の場合は、煎じ薬に本来は無いはずの複数の成分が生じる事が判っています。
煎じ効率や煎じ時間、化学反応によるものか原因は定かではありません。

煎じ薬とエキス剤は成分が異なる

エキス剤を使い効果のない患者さんに煎じ薬を使うとすぐに効果が出始める事が有ります。
またエキス剤を服用の患者さんの副作用が、同じ処方の煎じ薬に切り替えると副作用が消えることが有ります。
煎じ薬とエキス剤では成分自体が異なります。

携帯に便利なエキス剤

気剤の少ない陰病位の漢方薬ならエキス剤でも大きな問題は少ないと思われます。
気剤の多い陽病位の漢方薬は出来るだけ湯剤、煎じ薬がお勧めです。漢方本来の働きが味わえます。

漢方薬の伝統的な剤形

漢方薬の内服には、湯剤煎じ薬、丸剤、散剤、雪剤、薫剤などがあります。他に外用の漢方薬も有ります。

様々な剤形の漢方薬

雪剤は今のドライシロップと同じで口に入れ溶かして飲む剤形です。今は失われた剤形です。
薫剤はお香や線香と同じで病人の居る室内で焚き、香りで治療をする方法です。

現在は主に漢方薬内服として湯剤煎じ薬、丸剤、散剤の三種類が使われています。

丸剤の特徴

丸剤は粉末にした漢方生薬を丸め蜂蜜で固めて造ります。
丸剤にすると、固めるため揮発性の精油成分が抜けにくいと言う特徴が出ます。

また蜂蜜により胃腸に優しい製剤が出来ます。八味地黄丸や桂枝茯苓丸の煎じ薬に蜂蜜を少し入れて飲むのも一考です。

散剤の特徴

散剤は数種類の漢方生薬を粉末にして造ります。

気剤の漢方生薬は少し粗目の末にします。精油成分を残すため細胞膜を出来るだけ壊さないためです。
水剤は胃で早めに吸収させるために、出来るだけ細かい末にします。
最後に血剤は腸で吸収しますので、少し粗くても大丈夫です。
散剤を効果的な製剤にするための注意点です。

煎じる時間

漢方薬は煎じる時間で効果が変わります。

日本茶を入れる時に、1煎目、2煎目までは甘いお茶が出ます。
4煎目、5煎目になると渋みが出てきます。
また高温だと渋みが多く、低温だと甘みが増します。温度と抽出時間でお茶の成分が変わるからです。

煎じる時間で成分が変化

漢方薬も煎じる時間で抽出される成分が変わります。
一般に補剤は長く煎じ、瀉剤は短時間で煎じます。
幾つか例を挙げます。

瀉剤の代表、三黄瀉心湯

三黄瀉心湯と言う漢方薬が有ります。
煎じるのではなく、お湯をかけるだけの振出しで使うことも有る漢方薬です。

胃腸薬として使う苦味健胃薬のセンブリなども振出しで飲めます。

大黄剤

大黄と言う漢方薬には2つの働きがあります。
清熱作用と瀉下作用です。

清熱作用で使用する場合は、長めに煎じ、瀉下作用で用いる場合は短めに煎じます。

附子剤

附子剤も2つの働きが有ります。
鎮痛作用と賦活作用です。

鎮痛作用で使用する場合は、50、60分で煎じます。50分以下は毒性が残り、60分以上では鎮痛成分が分解し効果が薄れます。
しかし賦活作用で使用する場合は、1時間以上で長く煎じます。
煎じる時間により成分が変わるからです。

柴胡剤の再煎方

また再煎法と言う独特の煎じ方が有ります。
柴胡剤を煎じる時の方法です。
1度煎じたらカスを取り、再度10分程煎じると化学反応を起こすと考えられます。味も効果も変わります。