
2023年3月22日;(写真は、青森県、奥入瀬オイラセ谿谷です。)
「病が進行する少陽病から陽明病へ」から続く
オレンジ色は、理解すれば誰でも解る三陰三陽のシグナル。シグナルは可能性と考えて下さい。
陽明病
陽明病の舌診と脈診
陽病は、上から下へ進行していきます。太陽病タイヨウビョウ(上焦ジョウショウ)、少陽病ショウヨウビョウ(中焦チュウショウ)、陽明病ヨウメイビョウ(下焦ゲショウ)へ進みます。
陽病の最後が下焦(臍から下)の陽明病になります。
陽明病は最も実証の病位で熱証になります。
舌診では苔は黄色から褐色、又は黒苔が生じます。白苔でも苔は厚くなります。熱証(ネッショウ)ですので舌苔は乾燥しています。
脈証は実脈(ジツミャク)です。
陽明病の3つの型
下焦の陽明病は3つに分類されます。
下焦の背側(腎)の内臓熱
- 石膏(セッコウ)の証、脱水が特徴で口渇が激しいです。
- 白虎湯(ビャッコトウ)証、五苓散(ゴレイサンショウ、虚実により少陽病位に配当されますが、口渇、血中水分量の減少があり、方意は陽明病です)
※強い口渇が有る時は水毒による陽明病です。 - 脱水は血液中の水分が減少し血液濃度が上がります。
血液濃度が上昇することにより反射神経で口渇が生じます。口渇により水分補給を促し血液を薄めようとします。
口渇のある時は既に血液中の水分が減少し血液はドロドロしています。夏場やサウナ、運動時は早めの水分補給をしないと梗塞などの血栓症を引き起こす可能性があります。 - 血糖値が上昇し血液中に糖分が多くなると、水分量は十分でも血液は糖により濃くなるため口渇が生じます。陽明病の方意が現れます。糖尿病でも慢性的になると口渇を感じにくくなります。
- 逆に貧血が酷くなると、血液は薄くなります。薄い血液を正常に戻すため、血液中の水分を血管外に移します。それにより酷い貧血による浮腫が生じます。
※貧血の酷い場合は、太陰病(タイインビョウ)~少陰病(ショウインビョウ)位になります。
下焦の腹側(腸)の内臓熱
- 大黄(ダイオウ)・芒硝(ボウショウ)の証。便秘が特徴です。そのため実証の腹部膨満(腹満)が生じます。
承気湯(ジョッキトウ)類が代表処方です。 - 腹満(フクマン)には実証と虚証が有ります。
実証の腹満は、弾力があり便秘がちです。
虚証の腹満は軟弱無力です。虚証の場合は太陰病位に入ります。 - 急性疾患で腹膜炎を起こしている場合や、肝硬変や他のお病気で腹水の場合も有ります。それらは腸の内臓熱による腹満ではありません。
下焦の腹側(卵巣)の内臓熱「瘀血」
- 牡丹皮(ボタンピ)・桃仁(トウニン)・水蛭(スイテツ)・裴蟲(シャチュウ)などの証
- 瘀血(オケツ)が特徴で少腹急結(ショウフクキュウケツ)と言う腹証を呈します。
少腹急結は、左腸骨窩(臍の左斜め下、腰の内側)からS状結腸(下腹部)へ抵抗と圧痛が有ります。
軽度の場合、左腸骨窩だけですが、瘀血が強いとバナナ状に下腹部へ伸びていきます。ご自分で触っても分かります。
このバナナ状の抵抗物は筋肉の緊張だと言われています。 - 桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)・通導散(ツウドウサン)証、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン。虚実により少陽病位に配当されますが、方意は陽明病の瘀血です)
- 「血=瘀血」の認識の間違い
様々な東洋医学が混入した現在、柴胡(サイコ)・黄芩(オウゴン)・黄連(オウレン)などが適応する中焦の血熱も、当帰(トウキ)・芍薬(シャクヤク)・川芎(センキュウ)・地黄(ジオウ)などが適応する血虚(ケッキョ)も瘀血と勘違いされて呼ばれています。
「瘀」は籠る(コモル)の意味で、瘀血は籠った血毒です。 - 「瘀血」は日本漢方の伝統用語です。
1980年代まで数百年の間、陽明病位の下焦の籠った血熱のみが瘀血と呼ばれてきました。
当コラムでは、腹証にて少腹急結・臍傍圧痛を伴う下焦の籠った血熱のみを伝統的「瘀血」の用語で使っていきます。
太陰病
この病位より三陰三陽の陰病に入ります。
病の進行は「太陽病→少陽病→陽明病→太陰病(タイインビョウ)→少陰病(ショウインビョウ)→厥陰病(ケッチンビョウ)→死」と進みますので、陽明病で治せなかった病は太陰病に進みます。
また「少陽病。虚すれば太陰病、実すれば陽明病」ですので、少陽病で慢性化し虚すれば、陽明病を通り過ぎ太陰病に進むと思われます。(或いは虚しているので陽明病の時期が短時間で太陰病に移るのかもしれません)
陰病の始まり太陰病
太陰病の「太」には、「始まり、架け橋」の意味があります。太陰病は陰の始まり、陽と陰の「架け橋」の病位です。
そのため、太陰病には陽証の熱が虚熱(キョネツ)として少し残ります。
それゆえに本来の陰病は小陰病からだと思っても良いです。
虚熱として手掌煩熱(手掌や足掌が火照る)、口唇の荒れ・・・など。
陽証の内臓熱も少し残りますので、舌証では薄い白~黄苔が認められます。しかし陰証ですので白苔は湿潤し湿っています。
口唇や手足の虚熱は有りますが、身体は無熱または少し冷えています。
陰証ですので脈証は沈の脈になります。
太陰病の例外
太陰病は陰証ですので一つの例外を除いて全て虚証になります。「桂枝加芍薬大黄湯(ケイシカシャクヤクダイオウトウ)」証のみが実証です。
腹膜炎や虚証・年配者の便秘などに使用する方意です。便秘薬を服用しお腹が痛くなる場合は桂枝加芍薬大黄湯証の可能性があります。
またこの処方は便通を改善しますが、腸の収縮を防ぐため腹痛がきにくいです。しかも癖になり難い便秘の処方です。
陰病は下から上へ
陽病は上から下へ進行し、太陽病(上焦)→少陽病(中焦)→陽明病(下焦)へ進みます。
陰病は逆に下から上へ進みます。太陰病(下焦→中焦)→少陰病(下焦→中焦→上焦)へ病は進行していきます。
太陰病では下焦(下腹部)に病が有りますので、虚証の軟弱無力な腹満、下痢。卵巣の虚としての血虚などが生じます。
「病が進行する太陰病から少陰病へ」に続く