体質の必要な診方

漢方コラム

2023年2月15日。写真は、青森県、奥入瀬オイラセ谿谷、雲井の滝です。

西洋医学と東洋医学

風邪などで発熱した場合、西洋医学では種類は異なっても通常は同じ効能の解熱剤を使用します。しかし東洋医学では一人一人の患者さんの証に応じて治療法も漢方薬も異なります。

病名と東洋医学

風邪だけでなく下痢や細菌感染でも頭痛でもリウマチなどの身体痛でも、全ての病気で病名が同じでも患者さんごとに治療法と漢方薬が異なります。

病名でお薬が決まるのではなく、一人一人の証、体質や病状で漢方薬が決まります。例えば大柴胡湯証の同一患者さんなら、風邪でも糖尿病でも高血圧でも病名に限らず同じ大柴胡湯で治療することもあります。

証、体質や病状を判断する時に最低限必要な要点

  1. 摂取した水の流れ
  2. 摂取した食物の流れ
  3. 全身的で体質的な寒熱と、病、患部の寒熱

病因の気血水

東洋医学では病因である病の原因を気、血、水で判断します。気毒、血毒、水毒です。気は目に見えません。エネルギーと考えると分かりやすいです。血、水は目に見える物質です。水毒に影響を与えるのは摂取した水分とミネラルです。血毒に影響を与えるのは摂取したタンパク質と油脂物、糖類です。特に油脂物は血毒との関係が強いです。また寒熱は病因や病の証、体質の性格を最も判断しやすい目安になります。

東洋医学の問診、切診、聞診、望診の四診による情報は非常に多いです。上記の水、食物の流れ、寒熱は東洋医学の病因と診断、証の判断には最低限必要な情報となります。簡易に説明します。ご自分やご家族の状態、体質を診るのに十分な情報だと思います。

摂取した水の流れ

今回は病の原因である病因の水毒に影響を与える摂取した水の流れを診ていきます。水毒は他にミネラルにも重要な働きがあります。ご自分やご家族の証、体質と病を判断するためのご参考になれば幸いです。

口渇、口乾

  1. 喉は乾かない。陰病で内臓や肉体に冷えがある可能性があります。
  2. 口乾。喉は乾くが少量の水分或いは口を湿らす程度で満足する状態。虚証の場合が多いです。又は陰証で弱ったために火照る虚熱の場合もあります。まれに瘀血による口乾も有りますので注意が必要です。
  3. 口渇。喉が渇き水分をゴクゴク飲む状態。実証又は瘀血証で脱水又は内臓に熱がある裏熱の場合が多いです。
  4. 温かい飲み物を好む。冷え症、又は裏寒、内臓が冷えている
  5. 冷たい飲み物を好む。熱証で内臓に熱が籠っています。

排尿

  1. 頻尿、夜間尿。夜間尿は男性の前立腺肥大でも生じます。頻尿は膀胱炎などの病的な尿路障害がなければ、漢方では龍骨の証と言い、夢をよく見る人に多い場合があります。
  2. 多尿か乏尿か。多尿は冷えでも生じます。多尿、乏尿は異常な病的な原因が無いか一度検査をお勧めします。
  3. 尿の色の濃淡。尿の色が濃いのは熱証、薄い水のような尿で多尿は寒証です。ビール色の様な濃い尿の場合、黄疸の可能性も有ります。

発汗状態

  1. 汗のかきやすさ。汗をかきやすいのは虚証、汗をかきにくいのは実証です。しかし附子剤などが適応する陰証が進むと汗はかきにくくなります。またベタベタしてジワジワかく汗は陽明病の潮熱と言われる裏熱の場合があります。
  2. 寝汗、盗汗。寝汗は体力の衰えです。また少陽病の往来寒熱で、夕方の発熱の解熱と同時に寝汗をかく事も多いです。
  3. 頭汗、首から上の発汗が多い。漢方では柴胡桂枝乾姜湯証の特徴的な発汗です。血の道、更年期の症状としても生じます。また茵蔯蒿湯で下さないといけない時にも頭汗が観られることがあります。

摂取した食物の流れ

今回は病の原因である病因の血毒に影響を与える摂取した食物の流れを診ていきます。タンパク質、脂肪、炭水化物の中でも特に油脂物は血毒との関係が強いです。

ご自分やご家族の証、体質と病を判断するためのご参考になれば幸いです。

食欲は体質や病の進行と大きく関わります。

1回で食べる食事量

1回に食べられる食事量が多いのは実証、逆に1回量が少ないのは虚証です。

食後に睡魔がある

食事後は胃腸に血液が集まります。また胃腸は副交感神経の支配下にありますので食後は副交感神経が優位になります。

一般的に食後に睡魔が来るのは虚証、脾虚とみなします。胃腸に血液が集中するので他の部位の血液量が減少します。腎臓病や肝臓病、血栓症などでは食後に暫く横になるのがお勧めです。

便通

便の太さは虚実によって異なります。便が太いのは実証細いのは虚証です。便が細い場合、他に大腸や肛門部の病気の場合もあります。

コロコロ便など

漢方では兎便と言います。ウサギの便のようにコロコロした便です。腸内の水分量が減少したため腸の収縮の形のまま排便された便と考えられています。体内水分が減少する年配者に多く観られます。漢方では麻子仁丸や潤腸湯、地黄剤の適応と成ります。

食養生では水溶性繊維の多い完熟した果物や海藻類、火を通した野菜を多くします。

下痢

下痢は本来、食中毒などで身体の中に入り込んだ細菌やウイルス或いは毒物を排泄するための防御反応です。しかし様々なお病気でも下痢は起きます。また下痢は体内のカリウムを排泄するので倦怠感も生じます。リンゴや果物、野菜などでカリウム補給が必要です。

漢方では排便後スッキリする下痢肛門部に灼熱感のある下痢は陽証。排便後に脱力感や色の薄い下痢、食物がそのまま排出される下痢などの完穀下痢は陰証と捉えます。

陽証には瀉心湯類、陰証には人参湯や附子剤を使用することが多いです。いづれにしても下痢にて水分が減少しますので脱水を防ぐために水分補給が必要です。

腹中雷鳴、ガスが多い

お腹がゴロゴロなりガスが多い状態を腹中雷鳴と言います。腸内異常発酵の状態です。瀉心湯類の適応になります。胆汁の働き不足でも生じます。

脂溶性便、便器に付いた便が水で流れにくい

下痢は一般的に水性ですので便器についても水で流れます。便器に付くと流れにくい軟便があります。脂溶性便と言い油脂の混在した便です。

胆汁の働きが弱いと

膵頭部から十二指腸へ胆汁が排泄され、胆汁の界面活性作用で食物中の油性食物と水性食物は混和されます。本来の便は水と油脂が分離せず混ざり合った状態です。胆汁の働きが悪くなると水と油脂が分離した状態で腸内を経由し便となります。腸内では異常発酵を起こし臭いの強いガスが多くなります。便は水性と油脂性の分離した脂溶性便になります。

原因の多くは胆石、胆砂、胆泥の場合が多いです。食事の西洋化で日本人には非常に多いです。油脂物を食べてお腹が痛くなったり、アルコールを飲んで吐いた経験のある人は要注意です。

裏急後重。しぶり腹

排便後、また直ぐに便意がきて何度もトイレに駆け込む下痢は、裏急後重です。大腸に炎症性の病態があると考えられます。強すぎる便秘薬を服用しても生じることがあります。

寒熱

寒熱は病因の気血水や証の病状、体質の性質、性格を比較的判断しやすい診方です。ご自分やご家族の証、体質と病を診るため寒熱の判断は必要です。ご参考になれば幸いです。

寒熱のパターン

寒熱にも様々な形があります。

悪寒、発熱

温かくしていても悪寒と共に発熱する状態です。悪寒ほどではないですが、風や外気に当たったり水を触るとゾクッとするのが悪寒より少し軽い悪風です。いづれも肉体が免疫力を上げようとしている太陽病の熱形です。

往来寒熱

寒と熱が交互に往来する熱の事です。朝方は平熱で夕方に微熱が出て発汗し、翌日の朝には平熱に戻ります。また次の日もそれを繰り返す熱形です。

病邪が強く実証で症状の激しい場合は、昼の2時くらいから寒気がし夕方に高熱が出ます。虚証の場合は夕方に微熱が出て、朝の平熱へ向かうため解熱します。その解熱に伴う発汗が盗汗、寝汗となる場合もあります。

往来寒熱は、感染症などで初期の太陽病から次の病位の少陽病に入った時期の特徴的な熱形です。

逍遙熱

背中がゾクッと寒くなり1枚羽織ったら、熱くなり羽織を取る。羽織を取ったらまた背中がゾクッとする。寒熱が交互に訪れる少陽病位の自律神経のアンバランスによる熱形です。少陽病の往来寒熱が短時間で起きるパターンとも考えられます。

潮熱、弛脹熱

寒気がなくジワジワ熱が高くなります。その時、潮が満ちて浜辺の砂や岩場がすべて濡れるように全身にくまなく汗が出る状態です。身体の深部に非常に強い熱が籠っている状態です。

食養生では生野菜や少し苦みやアクのある食材を増やします。このような裏熱が強い場合は玄米も合っています。

陽明病の特徴的な熱になります。

寒熱の部位

寒熱が生じる部位でも様々な証があります。

上衝下冷

上衝は気が上にのぼることです。下冷は下半身が冷える事です。手足の末端が冷えるのに顔がのぼせる状態です。瘀血の証の特徴的な寒熱です。

食養生では緑の野菜を、生野菜のサラダでも火を通した温野菜でも良いので多く摂ります。

四肢厥逆

手足が特に冷える事です。陰病では四逆湯などの附子剤の適応です。心機能も新陳代謝も落ちている状態です。身体全体も冷えています。しかし陽病の場合は、四逆散などの適応で心機能も新陳代謝も落ちていません。交感神経の興奮により末梢血管が収縮し末端の血流低下が原因で起きる冷えです。緊張すると手先が冷たくなる人がいらっしゃいます。それは陽証の四肢厥逆になります。

手足煩熱

手足が火照り布団から外に出したがります。一般的に虚熱に成りますので陰の太陰病の熱です。身体が虚している可能性があります。食養生では穀類やイモ類、特にジャガイモや里芋など、鶏肉も合います。

陽証実証の場合は三物黄芩湯証などにも生じます。その場合は食養生では緑の野菜を増やします。

腰に特徴的な冷え

腰が重く腰より下の冷えが酷く、尿量も多いです。漢方では苓姜朮甘湯証になります。

食養では苦みやアクを避け、生姜料理を増やします。