2023年10月27日。写真は三焦分解図、腹証奇覧翼。和久田叔虎著です。
傷寒論を運用する三陰三陽
傷寒論の病位を診るのに、表裏の三陰三陽、三焦の上焦、中焦、下焦、内外などの判断が必要です。その判断には古方派の三陰三陽や八綱分類の技術が必要となります。
病位が判らないと傷寒論の
- 併病の先表後裏
- 併病の先急後緩
- 合病の治療病位と標本治療法
- 兼病の先表後裏、服用順番、合方
等の傷寒論に基づく治療方針を立てる事が出来ません。
難しい傷寒論を勉強していくと、薬方の特徴や使い方を何とか学ぶことが出来ます。しかし病位が分からないと、せっかく覚えた薬方の運用や治療順番、病態の理解が出来ません。古方で最も重要な理論が、病位を判断し薬方の運用を行う三陰三陽です。
少陽病の陰陽
急性病では、病位が太陽病から少陽病、陽明病と移る状態を観ることができます。同時に、次の病位は何処に進むか考えながら治療をしていきます。
慢性病の少陽病
慢性病では、患者さんの病位はすでに進行しています。次の病位を考える事が重要ではなく、現在の病位を正確に把握することが重要になります。
非常に悩ましいのが慢性病の少陽病です。傷寒論では表証と裏証が併存しているのが少陽病となっています。少陽病の正証は小柴胡湯証だと言われます。
少陽病の虚証
小柴胡湯証より虚していると陰証が強くなります。少陽病の虚証である逍遙散、補中益気湯、半夏白朮天麻湯など、太陰病位でも使用する処方です。
少陽病の実証
小柴胡湯証より実していると陽証が更に強くなります。男性の黒苔のファーストチョイスである柴胡加竜骨牡蠣湯証や大柴胡湯証などは、大黄を入れる事で陽明病位の承気湯証の方意に近くなります。少陽病の実証は、限りなく陽明病に近いです。
少陽病の治法
少陽病の治法は清熱解毒です。
太陰病の治法は温、散ですので、少陽病の虚証は、食養生では温と清熱解毒になります。陽明病の治法は瀉下ですので、少陽病の実証は、食養生では降と清熱解毒になります。
当然、同じ少陽病でも虚実により生活の養生もそれぞれ異なります。
脱肛、子宮脱の漢方
肛門や直腸が肛門の外部に飛び出した脱肛や子宮脱出などは内臓下垂の1つと考えられます。痔核が肛門の外に出てきて生じる脱肛もあります。
補中益気湯は少陽病位
日本の漢方治療では升麻による升提作用を期待し補中益気湯を用いる事が多いようです。補中益気湯は少陽病の虚証に使われる柴胡剤で人参や当帰、黄耆などを含む処方です。
少陽病の特徴は裏証の口の苦みと咽の乾きなどに、眩暈や他の表証の症状が加わった半表半裏証です。少陽病は、中焦の内臓熱が中心の病態ですので柴胡剤や瀉心湯の適応となります。
太陰病の特徴
太陰病の特徴は虚の腹満、自利下痢で裏証の寒証、腸や卵巣を含む下焦の虚、弛緩が中心となります。
脱肛の病態は太陰病
脱肛や子宮脱が腸の下垂や弛緩である事を考えれば太陰病の特徴に合致する場合が多いです。太陰病位では黄耆建中湯などの適用が多いと考えられます。
安中散
胃薬で有名な安中散は胃寒に対応する漢方薬です。少し虚証でも幅広く使えるように茯苓を加味しマイルドにして、安中散加茯苓とすることもあります。
逆流性食道炎に対する安中散
また神経性胃炎の特効薬でもあります。胃痛が酷い時は芍薬甘草湯を合方します。
逆流性食道炎の本治として使用することもあります。標治には生姜瀉心湯が来ることが多く、本治に安中散が来ることが多いです。
甘さを嫌う安中散証
通常、甘い物は緊張や痙攣などの収縮、痛みを緩和します。
古典では安中散は熱酒で飲む事になっています。お酒を飲まない人は、不思議ですが塩湯で飲み下すとの指示があります。また塩湯と同じですが、安中散証の人は甘い物を摂ると症状が酷くなったり胸焼けをする特徴があります。
安中散の体質改善
一般的に体質改善を目的に漢方薬を服用する時は1日2、3回を毎日服用し続けます。
しかし安中散は、症状が有る時に食前食後関係なしに頓服を必ず繰り返していきます。すると症状の出る頻度が減少してくる場合が多いのです。体質改善で長期に服用しても良いのでしょうが、頓服を繰り返しても体質改善をし良くなる場合が多いのです。
生理痛へ安中散
安中散の薬味構成の中に延胡索が入っています。延胡索は血毒による痛みを治めます。それを応用し安中散を生理痛に使用することもあります。