食材の働き

漢方食養生

2020年10月26日;(写真は鹿児島国分の城山公園から望む桜島です)

食材選択の基本

東洋医学の薬理学である「形象薬理学」では、新鮮で寿命の長い物、エネルギーの強い物を食べると健康で長生きすると考えています。

現代栄養学のヴィタミンやミネラル、アミノ酸、カロリーなどの発想は、東洋医学には存在しません。

寿命が長く腐れにくい物

長生きしたければ、寿命の長い物を食べます。夏に収穫し冬場でも食べられるカボチャ。腐れにくい食材、短命ではなく長命の食材を食べます。

元気で居たければ、エネルギーの強い物を食べます。
年老いた鶏や牛、豚、マトン(羊)ではなく、若鳥、若い牛、若い豚、若い猪、ラム(仔羊)などです。
伸びきった野菜ではなく、伸び盛りの生き生きした野菜。
果物では完熟した物などです。

生きていく力は、生きた新鮮な物を食べることで得られます。
採れたての野菜、獲れたての魚、刺身などです。
生きた物は「気」があり、死んだ物には「気」が無いと考えられています。
保存食は死体で「気」は無く、あくまで保存食であり主食にはなりえません。

大自然が「蔵」にて保存するのは、次世代へエネルギーを繋ぐ種物である穀類、イモ類です。主食になります。
東洋医学の「蔵」は「腎、水、先天の気」になります。

食材の性質

緑の野菜はアクが有りますので涼(身体をやや冷やす)です。
根から吸収された水分は葉で蒸散されます。そのため東洋医学では葉野菜は発散作用が有ると考えています。ストレスなどの時は、葉野菜の発散作用が適応となります。

外気(陽)に触れる表面、皮、葉野菜などは陰となり易いです。
地(陰)に触れる根菜類は陽となり易いです。

穀気。後天の気

黄色野菜のカボチャ、人参などは、甘(東洋医学の脾の臓)に配当されます。寒熱は平(身体を冷やしも温めもしない)です。
東洋医学の脾の臓は、穀気或いは後天の気と呼ばれる生きるエネルギーの臓腑です。
但し人参は生ではアクが有りますので、必ず火を通して食べます。

サラダで食べる淡色野菜は、アクが少ない野菜が多いです。白菜、トマトなども黄色野菜と同じく甘(東洋医学の脾の臓)に配当されます。
しかしトマトはナス科ですので、皮部分にはアク(陰でやや身体を冷やす)が残ります。生で食べる時はドレッシングやマヨネーズの酸味(温)が相性が良いです。

食材の働きと作用

東洋医学では、食材を考える食養生の指標が幾つかあります。

  1. 五気(寒、涼、平、温、熱)
  2. 五味(酸、苦、甘、辛、鹹)
  3. 五色(緑、赤、黄、白、黒)
  4. 燥湿
    燥は発汗、利尿にて身体から水分を減少させます。ジュクジュクした皮膚病や痰の多い咳の気管支の水分を減少させます。
    湿は身体を潤わします。血液中の水分量を増やしたり、乾燥気味の皮膚を潤したりします。
  5. 補瀉
    補は、弱った身体「虚証」に対し新陳代謝を活発化し元気にします。
    瀉は、有り余るエネルギー「実証」やオーバーヒートした身体の機能を鎮静化します。
  6. 升降
    身体の状態(気血水)を上げる(升)か、下げる(降)かします。
    例えば下痢は降、便秘は升。低血圧は降、高血圧は升の状態になります。脱肛や胃下垂は降です。
  7. 収散
    無汗は収、発汗は散。皮膚病は散、便秘は収。精神神経症で躁状態は散、うつ状態は収になります。

例えば、下痢は「降」であり「散」の状態となります。
高血圧で赤ら顔は、「升」で「散」で「実」になります。

これらの指標を組み合わせ、食材の食養生を考えていきます。
指標の中で最も大事なのは、五気と五味、燥湿です。

五気、五味、燥湿

食養生の指標は、五気、五味、五色、燥湿、補瀉、升降、収散の7種がある事を書きました。その中で特に重要なのは五気、五味、燥湿です。

酸味は温で潤

五気の寒熱だけで食材を考えると矛盾だらけの食養生になることがあります。
燥湿が潤の食材は、身体に水を呼びます。「水は寒なり、血は熱なり」ですので、潤の食材は身体を冷やす傾向があります。
しかし、リンゴ、杏、梅、ナツメ、スモモ等は潤(身体を潤わす)ですが、身体を冷やさず温める食材です。

らっきょうやニンニク等は瀉剤ですが、同様に身体を温めます。

海産物

海産物であるイカ(烏賊)は浄血作用があります。イカ墨は解毒作用、タコも水性毒に対する解毒作用が有ります。
イカは浄血作用ですので、生理量の多い人は生理中に食べると生理量が増えます。妊娠初期に食べると流産しやすくもなります。

「海産物は身体を冷やす」と言うのも一般論です。
海産物ですが、海老や牡蠣肉、貝柱などは身体を温めます。

イカの浄血作用と、コウイカ(甲烏賊)の体の中の退化した甲羅である烏賊骨(ウゾッコツ)が血毒に使われます。そのためイカは涼(身体を冷やす)と勘違いされやすいです。
東洋医学の古典、本草綱目(ホンゾウコウモク)には「イカは、味は塩からく僅かに温め、毒なし
養生要集には「イカは、味は塩辛く、性質は温める働きがあり、食して損益なし」と記述されています。
丹波康頼が纏めた医心方(イシンホウ)にも同様の記載が有り、イカ(烏賊)は身体を温めます。