六部定位脈診と小宇宙

漢方コラム

2024年4月9日。写真は、福岡市大博通り、博多歴史の散歩道、志賀島で見つかった漢委奴国王、漢の和の那国王の金印です。

今回のコラムは専門家向けです。

六部定位脈診とは

東洋医学では、病気の原因として十二臓腑の何処に異常があるか調べます。前回に記した五志の憂の感情でも臓腑を推測できます。

六部定位脈診は色々な病状を診る事が出来ます。また治療臓腑を決めることも出来る脈診です。

手首から指三本の脈診部で全身を診る事ができます。中指を橈骨茎状突起の下に当てます。示指を手首側に当て、薬指を中指の横に当てます。示指が寸、中指が関、薬指が尺に当たります。

右手の寸で肺大腸、関で脾胃、尺で心包三焦。左手の寸で心小腸、関で肝胆、尺で腎膀胱を診る事が出来ます。FTや糸練功での手掌診と全く同じ臓腑になります。

昔の人は、この脈診部にも小宇宙があると考えたのだと思います。

経別脈診部

手首の横紋線から指三本の所に内関が有ります。内関を通る横のラインを経絡ラインとします。内関から指二本半の所が臓腑ラインです。

経絡病では経絡ラインが強く反応します。臓腑病では臓腑ラインが強く反応します。金属棒を夫々のラインに載せると更に強く反応しますので判別しやすくなります。

後日、発見したのは経絡病では肺経の中府当たりに反応が出ます。また臓腑病では任脉の天突当たりの反応が強くなります。

経絡病

経絡病は急性から亜急性の病態を診ます。使われるのは経絡ラインです。

右手の肺経と経絡ラインの交点で肺大腸経。心包経と経絡ラインの交点で脾胃経。心経と経絡ラインの交点で心包三焦経の経絡病を診ます。

同様に左手で、心小腸経、肝胆経、腎膀胱経の経絡病を診る事ができます。

臓腑病

臓腑病とは、西洋医学的には慢性病や体質に起因したお病気です。

経絡ラインと臓腑ラインが肺経、心包経、心経と交わる箇所が片手で六ケ所、両手で十二カ所出来ます。ここで臓腑病の十二臓腑を診る事が出来ます。

臓腑ラインの交点は六臓に反応します。経絡ラインの交点は六腑に反応しています。

もう一つのライン

注意するのは、経絡ラインと臓腑ラインの間にもう一本のラインがあります。場所は経絡ラインから指幅一本弱の三分の一の所です。このラインが何を意味しているのか分かっていません。推測として帯脈の一つの可能性もあると考えています。

脈診部でのセンサーの方向性

六部定位脈診部や経別脈診部でFTや糸練功でのセンサーの使い方にコツがあります。センサーを肌に直角に当てます。これは腹診でも同じです。

更に六部定位脈診では、患者さんの経絡の流れ流注と、術者の経絡の流れ向きを直角にします。

しかし経別脈診部や手掌で診る時は、患者さんの経絡と術者の経絡を重ねて平行にしないと診る事ができません。

腹診部、患部でのセンサー

腹診部や患部を診る愁訴診では、指センサーや労宮を使う時は、術者の経絡の流れと患者さんの経絡の流れを平行にします。逆に手掌や手背センサーで、虚実や寒熱を診る時は患者さんと術者の経絡の流れを直角にします。

故入江正先生は、更に円筒磁石や紙包磁石を使う方法をお教えくださいました。

円筒磁石を使用する

六部定位脈診部で円筒磁石を使うと簡単に臓腑の判定が出来ます。

六部定位脈診部

円筒磁石の向きで六臓病と六腑病は反応が異なります。

臓病

臓病は円筒磁石のS極を外側に向けると、手掌の反応が強くなります。例えば右手の寸の脈診部は肺大腸に該当します。

円筒磁石のS極を外側に向けると、右手掌の反応が強くなった時は肺の臓の病です。

腑病

腑病は円筒磁石のN極を外側に向けると、手掌の反応が強くなります。

例えば右手の寸の脈診部でN極を外側に向け、右手掌の反応が強くなれば大腸の腑の病です。

経別脈診部

六部定位脈診部と同様に経別脈診部でも臓腑病の判断が出来ます。

臓病

臓病は、臓腑ラインでS極を肘側に向けると手掌の反応が強くなります。

例えば、左手の心包経と臓腑ラインが交差する点は肝の反応箇所です。ここに円筒磁石をS極を肘側に向け貼ります。左手掌の反応が強くなれば肝の臓の病です。

また右手の肺経と臓腑ラインの交点に円筒磁石をS極を肘側に向け貼り、右手掌の反応が強くなると肺の臓の病です。

腑病

同様に腑病は内関を通る経絡ラインを使用します。臓病との違いはS極を手首側に向けます。

例えば、左手の心包経と経絡ラインが交差す箇所は胆の反応が出ます。円筒磁石をS極を手首側に向けて貼ります。左手掌の反応が強くなれば胆の腑の病です。

経別脈診部の不思議な反応

経別脈診部で円筒磁石を貼り治療臓腑が正しいと、手掌の反応は強くなります。しかし患部、反応穴、百会、任脉、督脉、腹診、顔面診など全ての反応が消失します。まるで治療が上手く行き、太極になったような状態になります。

その時も手掌だけは強く反応しています。不思議です。

円筒磁石の磁力線

円筒磁石には磁力線の向きがあります。N極からS極へ磁力線が向いています。

身体の経絡も臓器も磁場があると言われています。この身体の磁場が電気信号、電位差で動かせると考えたのが間中喜雄先生、その一番弟子の入江正先生です。

反応が強くなる意味

東洋医学の治療法は、不足を補い有余を瀉すが基本です。

円筒磁石は逆治

円筒磁石で反応が強くなるのは、不足を瀉し有余を補う逆治を行っているからと考えられます。

病の時、六部定位脈診部での反応を観ると、臓病の経気は親指から小指方向へ、腑病は小指側から親指方向へ流れていると考えられます。経絡ラインにて経絡病を診る時も同じ流れを示しています。

経別脈診部では病気の時、臓病の経気は手首側から肘方向へ流れ、腑病の場合は肘側から手首方向へ流れていると解釈できます。

まだまだ人間の身体には解明されていない現象が多く残っています。身体の不思議な反応に気付かせて頂いた入江正先生のご指導には感謝しかありません。

紙包磁石

経気は磁場を持っています。それにより臓腑判定ができます。円筒磁石の磁力線がN極からS極へ向いている事を使います。経絡や身体の経気の流れの向きを調べる方法です。

円筒磁石と別に、入江正先生に教わったのに紙包磁石があります。紙包磁石の片面をN極、逆面をS極にします。

陰陽と補瀉

磁石にはもう一つの働きがあります。N極は補法、S極は瀉法の働きがあります。これは東洋医学の陰陽二元論の働きそのものです。

地球の地磁気

磁石のN極は北を指します。北極はS極だからです。反対に南極はN極になります。磁力線はN極からS極へ向かいます。地球の地磁気は南極から北極へ向かって磁力線が向いています。

陰陽を寒熱、補瀉、升降、収散で観ると

  • 陰は冷やす、瀉す、降ろす、発散発汗になります。
  • 陽は温める、補う、升らせる、収めるになります。

陰は瀉、陽は補です。陰陽二元論では北は陰、南は陽になります。北は陰で瀉、南は陽で補です。北のS極は陰で瀉。南のN極は陽で補です。陰陽二元論の理論通りです。

升降と収散

升は、血糖値を上げる、血圧を上げる、内臓筋を鍛え内臓下垂を防ぐ、脱肛を上げる、下痢を止める方向性と考えれば分かりやすいです。降は、血糖値を下げる、血圧を下げる、内臓筋が弱り内臓下垂する、脱肛する、下痢をする方向性と考えます。

収は、止汗する、皮膚を締める、脱肛を収める、下痢を収める働きと考えます。散は、発汗する、皮膚を開きます、脱肛する、下痢をする働きと考えれば良いです。

磁石の補瀉

再度確認です。地磁気と陰陽二元論を纏めると、磁石のN極が指す北極はS極です、北極のS極は陰です、北は陰で寒涼、瀉です。南極はN極です、南極のN極は陽です、南は陽で熱温、補です。

ゆえに紙包磁石のS極を当てると瀉法になり、N極を当てると補法になります。

陰陽二元論の色

ここで疑問が生じます。陰陽二元論では色も決まっています。赤色は陽で黒色は陰です。

北はS極で陰、陰は黒色です。南はN極で陽、陽は赤色です。

本来は磁石のS極に黒色、磁石のN極に赤色を持ってくるべきです。その方が更に磁石の陰陽、補瀉の力が強くなると思われます。

しかし入江先生はS極に赤色、N極に黒色を付ける様に指導されました。漢方薬や化学薬品も直接に肌に触れると別の反応が出るので、薬と肌の間に紙を挟むように指導されていました。磁石の力が強いので、色でオブラートの様に包まれたのかもしれません。今となっては定かでありませんが。

紙包磁石の使い方

紙包磁石には二つの使い方があります。

  1. 補瀉の治療方針を決められる事。
  2. 治療シュミュレーションが出来る事です。

経別脈診部で補瀉決定

経別脈診部で治療臓腑を決定します。その臓腑の補瀉を決めるのに便利なのが紙包磁石です。

指による補瀉

人間の指は爪の生え際ではなく、十宣穴から掌側と甲側で極性が逆転しています。掌側の肺経、心包経、心経が通る親指、中指、小指、労宮は陰面で、陽を感じる力が強いです。逆に甲側の大腸経、三焦経が通る示指、薬指は陽面で、陰を感じる力が強くなります。

手掌側と手背側では逆の極性になります。

補瀉に対する紙包磁石のS極、N極

指による陰陽が決まりましたら、紙包磁石でダブルチェックします。

陽病なら紙包磁石のS極を当てると瀉法になります。もしこの治療法が正しければ同じ合数の両手の手掌、患部、反応穴、治療臓腑、百会、任脉、督脉の反応が全て消失します。陰病ならN極を当て補法をすると、全ての反応が消失します。

全ての反応が消失することを確認できると臓腑の補瀉が決まります。

患部の補瀉決定

同様に患部やツボでも指のセンサーや労宮、裏労宮を使い補瀉の決定をします。その後に紙包磁石でダブルチェックします。労宮、裏労宮をセンサーとして使う時の注意点は、患者の経気と術者の経気を直角にします。

また紙包磁石の大きさよりも患部の範囲が広い場合が有ります。紙包磁石を患部に貼るのではなく少し距離を置くと補瀉が出来ます。経別脈診部と同様に補瀉が正しければ、すべての反応が消失します。

補瀉を間違えると

漢方治療や鍼灸で、処方や取穴を間違えても大きな副作用が出る事は少ないです。東洋医学の素晴らしい面かもしれません。ただ補瀉を間違えると大きな反応が出ることが考えられます。

人間の身体は補に鈍感、瀉に敏感です。治療する側、術者は補瀉だけは間違わない様にしないといけません。

治療シュミュレーション

紙包磁石の素晴らしい点は治療シュミュレーションが出来ると言うことです。シュミュレーションは補瀉の決定をしてから行います。

座骨神経痛

例えば座骨神経痛で右側の足が痛いとします。もし第四腰椎に問題がある座骨神経痛なら紙包磁石を問題のある腰椎に貼り、右足の反応が消失すれば、第四腰椎の治療にて座骨神経痛が解消することが分かります。

手の痺れ

手や肩が痺れて痛みがあるとします。頚椎が原因の場合は、頚椎に紙包磁石を貼る事により治療点が決まります。

頚椎に反応が無く、五志の憂の知覚神経障害の場合は五志の反応穴に紙包磁石を貼り患部や臓腑等の反応が消えれば、五志の治療で手や肩の治療が出来ます。

胸郭出口症候群は胸膈出口に紙包磁石を貼ります。そして反応が消えるのを確認します。

お灸をする

蒙色の治療では反応が強い箇所にお灸をします。お灸後に、最初の蒙色が消失し次の蒙色が現れます。新しく現れた蒙色にお灸をします。2つ目の蒙色が消失すると次の蒙色が現れます。次もお灸にて蒙色を消していきます。これを繰り返す事で治療をしていきます。

紙包磁石を貼るシュミュレーションにより、何か所かの治療は必要ないかもしれません。1、2か所の治療点で済む可能性があります。同様に鍼でも入江正先生は紙包磁石でシュミュレーションを行い鍼を打つ経穴を決めていらっしゃいました。

術者の発想

病になった時、人間の患部や臓腑に異常な電磁場が生じます。経絡の磁場も変化します。その磁場を正常な太極に戻すのが、漢方薬であり鍼やお灸です。

紙包磁石にも磁場があります。補瀉決定やシュミュレーション以外にも紙包磁石は治療法としても使えます。紙包磁石は治療する側の発想で無限に使い方が広がります。