2023年9月15日。写真は熊本県南小国町、押戸ノ石石群。約4000年前のシュメール文字が刻まれています。
漢方の抗生物質
葛根湯や柴胡剤の小柴胡湯などに桔梗石膏を追加すると、上焦の化膿症である蓄膿症や扁桃腺、喉の痛みなどに効果が増大します。
石膏の清熱作用
石膏の働きには幾つかありますが、この事例での石膏の働きは漢方では清熱ですので、薬理学では消炎作用になります。
桔梗は表証の細菌
実験によると、桔梗はマクロファージを活性化することが分かっています。マクロファージを活性化するのであれば、細菌やウイルスにも効果があると考えられます。しかし伝統医学では桔梗は細菌性疾患に使用しますが、ウイルス性疾患には殆ど使用しません。
桔梗に甘草を加えた桔梗湯があります。私自身が肺炎になった時に服用し、こんなに早く効くのかと即効性に驚いたことがあります。桔梗湯は気管支拡張症の咳などにも使用します。また気管支拡張症で肺の線維化が軽ければ薏苡仁、病状が進んでいると野蒲陶などで対応していきます。
その他の抗菌作用の漢方薬
細菌性疾患に使用する漢方の抗生物質には桔梗、連翹、金銀花、忍冬、露蜂房などがあります。糸練功にて確認し選択を誤らなければ、どれも即効性で効果も良いです。
石膏は冷やすのか
随分、以前の事ですが、ある県で行われていた漢方勉強会に参加していました。参加されていた先生が「石膏を飲んで下痢をした。石膏は冷やすから」と言われたのを覚えています。石膏は陽明病の下焦の熱を取ります。
下焦の陽明病は
- 腎臓を含む水分代謝による熱症状。口渇、脱水が現れる
- 腸内の熱症状、炎症。便秘傾向が現れる
- 卵巣の熱症状。瘀血症状が現れる
の3つに分かれます。
1の脱水の証は石膏剤。白虎湯などの証です。
2の便秘の証は大黄、芒硝剤。承気湯類の証です。
3の瘀血の証は牡丹皮、桃仁、蘇木。桃核承気湯や通導散などの駆瘀血剤の証です。
同じ陽明病でも熱を冷やす部分が3箇所とも異なります。下痢をするのは2番の便秘、腸内の熱を冷やし過ぎた時です。石膏は作用点が異なり下痢をすることはありません。石膏で下痢をしたと感じた先生は、たまたま別な原因が重なったための勘違いだったのでしょう。
石膏の働き
石膏は訂補薬性提要には「津を生じ渇を止む」とあります。血液中の水分が減少すると反射で口渇を生じます。石膏は血液中に潤いを付け口渇を止める薬味です。
服用量で変化する効能
漢方薬に限らず化学薬品でも服用量が増すと通常は効果が増します。漢方薬には服用量にて効果が変化する薬味があります。
- 石膏は1日量が10グラム以上だと清熱作用が強くなります。5、6グラムだと鎮静作用に変わります。1日量7グラムが清熱、鎮静作用の境だと言われています。
- 黄連は1日量が1グラム以下だと効果が強くシャープです。分量が増えると逆にマイルドになる唯一の不思議な薬味です。
- 新型コロナで毎日使う消毒用アルコールは純度75パーセント前後が一番殺菌力が強いです。純度が低くても殺菌力は落ちます。しかし純度が高いはずの100パーセントのアルコールでも殺菌力は落ちます。
不思議ですね。
蕁麻疹に使用する香蘇散
蕁麻疹に使用する漢方薬には不思議な事があります。海産物で食あたりしたら、まず最初に適応と考えられるのが香蘇散です。
海産物の食あたりは香蘇散
香蘇散は海産物の食あたり以外にも、胃腸の弱い方の風邪、自律神経、鬱病、蕁麻疹などにも使用される漢方薬です。
私の家族も食あたり
私の子供達が小学生の頃、近くのスーパーで買った蟹を食べ、私以外の家族全員が食あたりをして寝込んだことがあります。その時も家族全員に香蘇散を処方し直ぐに回復した記憶があります。
香蘇散は急性の食あたりにも使用しますが、慢性の蕁麻疹にも最初の原因物質が海産物なら効果があります。
香蘇散の有効成分
香蘇散は香附子と紫蘇葉、陳皮が重要な薬味です。3味とも精油成分に薬効があります。エキス剤は製造過程で精油成分が残らないため効果は薄くなります。
香蘇散は生薬を末にした散剤が一番精油が含まれ効果があります。湯剤の場合でも、煎じる時間が長すぎると精油が飛び効果が薄くなると考えられます。
蕁麻疹に使用する葛根湯
他に蕁麻疹に汎用される処方に葛根湯があります。これに石膏を追加した葛根湯加石膏は蕁麻疹に広く使用されます。
葛根湯加石膏
葛根湯加石膏は、急性に限らず慢性の蕁麻疹でも使用します。香蘇散証の原因は海産物が中心ですが、葛根湯加石膏は海産物に限らず陸生の原因物質がアレルゲンの場合にも使用されます。症状の激しさを考慮し、石膏量は随時に増量します。
葛根湯加石膏と肝機能
20年程前、不思議な事に気付きました。
葛根湯加石膏証の蕁麻疹に、肝機能を改善する補助剤や柴胡剤を追加すると治りが早くなるのです。肝臓での解毒が関係しているのでしょうが、香蘇散証の時にはこのような現象は見られません。葛根湯加石膏証には、肝臓でのアミノ酸や油脂の代謝が関係しているのかもしれません。
蕁麻疹の橘皮大黄芒硝湯
急性や慢性の蕁麻疹に汎用される処方に橘皮大黄芒硝湯があります。金匱要略が出典の処方です。橘皮と大黄、芒硝の3味からなる処方です。
橘皮大黄芒硝湯
大黄、芒硝が入りますので裏熱です。また表証に蕁麻疹があります。裏の症状と表の症状が混在していますので、少陽病の実証になります。しかし大黄芒硝による瀉下と清熱の処方ですので、方意としては陽明病に近いです。少陽陽明の合病だと思います。
使用する芒硝
芒硝は永く硫酸ナトリウムと勘違いされていました。その後、正倉院の収蔵漢薬である芒硝が硫酸マグネシウムと言うことが分かりました。現在は、芒硝は硫酸マグネシウム、朴消は硫酸ナトリウムだと言われます。
食養生と橘皮
食養生では、海辺に海産物の毒消しをする柑橘系が育つと考えています。また内陸部では肉の毒消しをするリンゴが育ちます。食養生の身土不二です。
現在の橘皮は橘ではなく、ミカンの皮を乾燥したのが生薬として使われます。青い未完熟の皮を乾燥し青皮になります。完熟した黄色の皮を1年程乾燥させたのが橘皮です。更に1年以上乾燥させ精油成分をマイルドにしたのが陳皮になります。