2023年10月20日。写真は山口県下関市と福岡県北九州市を結ぶ関門海峡です。
頓服の漢方薬
漢方薬は慢性病に永く飲むと考えられています。
急性病の治療が目的で発達した漢方
漢方の古典である傷寒論の治療法は、急性病に対し書かれています。私達古方派は傷寒論の急性病理論を慢性病へ置き換え運用しています。
風邪や下痢、発熱などのウイルスや細菌感染、打撲などの外傷など、急性病に対する傷寒論の理論は非常に広範囲です。
頓服の漢方
本来は急性病に使用するため発達したのが漢方薬ですので、頓服薬もあります。痛みに対する芍薬甘草湯、咳に対する甘草麻黄湯、鼻水に対する甘草乾姜湯、精神神経症に対する甘麦大棗湯、不眠症に対する交泰丸など多くの頓服薬があります。
頓服の芍薬甘草湯を慢性の腰痛、神経痛へ
頓服の漢方薬ですが、慢性病へ長期に使うこともあります。故藤平健先生は、慢性の腰痛や神経痛に芍薬甘草湯を繁用されていらっしゃいました。また頑固な慢性化した痛みには附子を加え、芍薬甘草附子湯を使用し治療されています。
頓服の甘草麻黄湯を喘息の体質改善へ
また喘息に頓服で使用する甘草麻黄湯も、長期に体質改善薬として使用されています。私も藤平健先生に倣い、甘草麻黄湯で多くの難治性の喘息患者さんを治してきました。
ただ私の場合、甘草麻黄湯と補中益気湯とを併方します。その方が甘草麻黄湯による脱汗を防ぎます。また体質改善力が強まります。再発し難くなります。
即効の甘草湯
喉が激しく痛む時に甘草湯で痛みがサッと消えます。軽い痛みには効きません。唾を飲んでも痛いのが適応するかどうかの一つの目安です。
甘草湯の使用方法
甘草湯を水で溶き、少量を口に含みうがいをします。口の中で温まる位うがいをし喉にユックリと流し込みます。瞬間に痛みが消失します。口に含む甘草湯の量が多いと、サポニンの泡が口から溢れますので少量づつうがいをした方が良いです。1回量を多くするより1日の回数を多くした方がより効果的です。
駆風解毒湯もうがい
うがいをして飲む漢方薬に甘草湯以外に駆風解毒湯が有ります。これらには炙甘草ではなく生甘草を使用します。直接、触れて痛みや炎症を取る場合は生甘草を使用します。
忘憂湯
甘草湯と同じ生甘草一味の薬方に忘憂湯があります。全く同じ処方ですが、こちらは痔の痛みに使用します。痔の痛みが激しい時に甘草の温かい煎じ液を洗面器にいれ、そこにお尻を付けます。痛みがスゥと取れるそうです。憂いを忘れる忘憂湯です。
私は経験はありませんが、太陽堂漢薬局で修業中の先生が、忘憂湯にお尻を付け「痛みが取れスッキリした」と言っていたのを思い出します。よっぽどお尻が痛かったのでしょう。
生甘草と炙甘草
漢方薬の中で最も繁用される甘草。漢方の古典の傷寒論では「甘草炙る」と指示されています。本来は漢方薬は全て炙甘草を使用します。
生甘草の使用
例外として直接接触により急速な消炎作用を期待する桔梗湯と甘草湯などが生甘草を使用します。
しかし現在の日本の漢方処方は例外である炙甘草湯を除き、全て生甘草を使用し処方が組まれています。もし古典に忠実に日本の処方内容で炙甘草を使用する場合は、甘草量を炙甘草に合わし少し分量を増やさなければいけません。
甘草の俢治
甘草の俢治は皮を去り、皮去り甘草にするか、皮を炙った炙甘草にします。甘草の皮に毒があると考えたのでしょう。生薬の鑑別でも甘草は、皮が薄くて、甘く、スカが無い事が条件となります。
蜂蜜を使った蜜炙の炙甘草は傷寒論にはありません。傷寒論の炙甘草に、蜂蜜の強力な潤、甘みによる緩、補の働きが更に加わります。
生甘草は少し冷で虚熱キョネツを取ります。炙甘草は独特の香りがあるため、少し温で気剤として脾を補い気を増します。また低カリウム血症が起きにくくなります。
蓄膿症、副鼻腔炎の漢方
蓄膿症、副鼻腔炎は風邪や花粉症、アレルギー性鼻炎が引き金で発病する事があります。体質的傾向では炎症性、化膿性体質の方が多いです。
なかなか治りにくい蓄膿症は、漢方薬による根本治療が適している疾患です。漢方治療では、加味方で辛夷川芎や、桔梗石膏。合方では桔梗湯などを追加します。
急性の蓄膿症には葛根湯加川芎辛夷
最も有名な処方は葛根湯加辛夷川芎です。急性期や上顎洞が痛いほど化膿していても、目の上の前頭洞の炎症が少ないと効果的です。
慢性期や前頭洞まで化膿している時は効きにくくなります。他の薬方が適応します。
コブシのつぼみ
蓄膿症で多用する辛夷は、モクレンの仲間で初春に白い花を咲かすコブシのつぼみです。刺激のある辛さがあり五味は辛です。花が咲く前の未開花のつぼみを漢方薬として利用しますので夷の名前が付いたと思われます。夷は蝦夷、東夷などと同じく未開の意味です。
辛夷の消化器刺激
辛夷は、この辛みで胸焼けやムカツキなどの胃症状を訴える人がいます。対応として漢方薬を服用する時の煎じ薬を濃度を薄くします。またエキス剤では、水をやや多めにコップ1杯服用します。冷服したり、食後に服用すると防げる場合が多いです。
様々な蓄膿症、副鼻腔炎
蓄膿症の患者さんでは、鼻閉だけが非常に強い方もいらっしゃいます。肥厚性鼻炎も考えられます。
鼻閉には
鼻閉の強いタイプには葛根湯加味方である葛根湯加川芎3辛夷3黄芩3桔梗2石膏5大黄が奉功することが多いです。便秘が無ければ大黄は不要の場合もあります。大黄は排便だけでなく、抗炎症で清熱作用として必要な場合もあります。
葛根湯加川芎辛夷に青皮製剤を同時服用でも同様にかなりの効果があります。
鼻茸
蓄膿症が長引くと、鼻茸が出来ることがあります。鼻茸には適応処方にプラス、排膿散及湯を合方したり、薏苡仁10を加味したりします。薏苡仁と同様の働きのある野蒲陶の適応も考えられます。
鼻茸が無くても慢性状態が長引いている時は、薏苡仁の加味、排膿散及湯の合方で良くなることがあります。
蓄膿症へ他の漢方薬
また緑色の濃い鼻汁が大量に出る場合は辛夷清肺湯の適応されることも多いです。
蓄膿症の基本処方は葛根湯や柴胡剤、荊芥連翹湯、半夏白朮天麻湯、防風通聖散など証に合わせて縦横無尽に使い分けていきます。
蓄膿症の食養生
食養生として白砂糖は免疫力を下げます。化膿性には不可です。油物は血滞、瘀血には不適です。もち米は炎症を増します。このような食材は出来るだけ減らします。清熱解毒の働きの濃い緑の野菜や発散作用の葉野菜を多く摂ります。
化膿や炎症が強い時は香辛料は体表を温めます、特に唐辛子を避けます。炎症が進みます。炎症が取れてきたら、逆に少し黒胡椒などの香辛料を使うと再発防止になります。辛いは発散作用があり蓄膿症を予防します。辛夷の辛さによる発散を蓄膿症の治療に応用するのと同じ理屈です。
辛夷シンイ
コブシはモクレンの仲間です。以前、北陸に行くサンダーバードの車窓から山に咲く野生のコブシの花を見て「何と美しい」と思いました。モクレンより小ぶりの白い可憐な花ですが花の数が多く綺麗です。
コブシは漢方薬
コブシの花のつぼみを漢方薬に使用します。辛夷と言う鼻炎や蓄膿症に使用される有名な生薬です。処方では葛根湯加辛夷川芎、辛夷清肺湯などです。
つぼみが開花する寸前は香りがし、開花する為のエネルギーが1番強くなります。辛夷の鑑別は大きく育ち、まだ閉じていて開く寸前のつぼみが良いです。鼻の詰まりを開き解消する働きが強くなります。
鼻は顏の肺
東洋医学では、鼻は顔の肺と言われます。肺の臓の五色は白、五味は辛です。辛夷は白い花で味は辛く、香りが有るため上焦の顔の肺の鼻に効きます。
膿がある蓄膿症は
辛夷には抗アレルギー作用は期待できますが、抗菌作用は期待できず化膿には効果は無いです。化膿がある時は桔梗を加味したり、枳実の入った排膿散及湯などを併用すると良いです。