病因と水毒

漢方コラム

2024年5月7日。写真は、熊本市熊本城、天守閣の地下1階の穴蔵です。

病因と気血水から続きます。

水毒は、身体における水分の異常停滞や偏在です。

水毒の症状

浮腫みや漢方医学で言う胃内停水などの症状があります。

燥湿との関係

水の状態を現すのに漢方では燥湿の病性基準があります。
燥は乾燥、或いは水分の少ない状態です。
湿は湿潤、或いは水分の多い状態です。

燥の状態は陽明病の脱水である石膏剤の適応でもありますが、一般的には血毒との関係が強くなる場合が多いです。
水毒は燥湿の中の湿の状態と考えられます。

一般的な水毒の症状

浮腫みや水肥りなどは、誰でも水毒だと判断出来ます。

水毒が原因の痛み

以外なのに、痛みや関節痛などが水毒と関連が強い事があります。麻杏薏甘湯や桂枝加朮附湯などです。

血毒が原因の痛み

起床時に痛みが強い場合は、血流との関係があることが有ります。
寝ている間の発汗量は500ml位と言われます。起床時は血液がドロドロになっています。
その上、海外旅行の時のエコノミック症候群と同じで就寝時は身体をあまり動かしません。
血行不良による痛みが出現する可能性が高いです。

酒飲みの疎経活血湯証と言われることがあります。お酒を飲むとアルコール代謝のため血液中の水分が大量に使われます。その結果、血液がドロドロとなり血流が低下します。
血流が低下することにより生じる痛みです。
血栓による痛みも有ります。

水毒が関係する痛み

桂枝加朮附湯は吉益東洞が創生した薬方です。
吉益東洞が京都で診療に当たっている時、神経痛の患者さんが多かったそうです。
京都は盆地で高温多湿です。湿に侵された神経痛と考え、水毒を除く朮を使われました。
傷寒論の中の桂枝加附子湯に朮を加え桂枝加朮附湯を創られたそうです。

麻杏薏甘湯や越婢加朮湯など多くの神経痛、関節痛、リウマチなどの漢方薬が利水剤を多用しています。

胃内停水が水毒の原因に

漢方で言う胃内停水は、古方派では非常に重要な要素になります。

胃内停水が酷い場合、腹診で胃部に振水音を認める事があります。
通常は胃内停水があると、舌に歯形が付きます。
歯形の辺縁がクッキリだと半夏の胃内停水、辺縁が緩やかだと白朮茯苓の胃内停水の可能性があります。

白朮茯苓の胃内停水は陰証、半夏の胃内停水は陽証の事が多いです。
白朮茯苓の胃内停水で陽証の場合も有ります。苓桂朮甘湯証などです。眩暈やメニエール病、難聴、顔面神経麻痺、動悸、自律神経失調症、パニック障害など多方面に活躍する薬方です。

白朮茯苓の胃内停水は通常は陰証ですので中焦或いは下焦に症状が出やすいです。苓桂朮甘湯証は陽証ですので上焦に症状が出やすいです。
苓桂朮甘湯証は胃内停水が病の原因になります。

白朮茯苓の胃内停水

白朮茯苓の胃内停水に対する薬方は、苓桂朮甘湯や四君子湯、当帰芍薬散など非常に多くの処方があります。胃内停水が多くのお病気の原因になっていると推察されます。

白朮茯苓の胃内停水の特徴は、水が上衝してこない事です。

半夏の胃内停水

半夏の胃内停水の特徴は、水が痰や鼻水、嘔吐として上衝してくる事です。
嘔吐は小半夏加茯苓湯証、鼻水や痰は小青竜湯証など多数あります。

水毒に対する薬味、薬方

主要な薬味は、茯苓、白朮、猪苓、沢瀉、木通、麻黄、半夏、杏仁、黄耆、細辛、呉茱萸、防已などです。
主要な薬方は、五苓散、猪苓湯、澤瀉湯、小青竜湯、苓桂朮甘湯などです。

利水剤と利尿剤

現代薬理の利尿剤は誰が服用しても尿が出ます。強制的な利尿作用があります。
漢方の利水剤は、身体に水が余っている人は尿がでますが、水分が余っていない人は尿は増えません。

例えば五苓散を服用すると尿が出る人と出ない人がいます。
血液中の水分が減少すると反射的に口渇が出ます。
水分を摂っても喉の渇きが取れない時があります。
その時に五苓散を服用すると、消化器の中の水分を血液中に運び口渇が解消します。
血液中の水分がちょうどの人は尿が増えません。血液中の水分が多すぎる様になった人は尿が増えます。
五苓散は尿を出す働きではなく、身体の中の偏在した水分を調和するだけです。

怪病

漢方の世界では、怪病は痰として治せよと言われます。
怪病は水毒として治療しなさいと言う意味です。

怪に侵された病が怪病です。
色々な治療をしても改善が見られず、また別な症状が出現するパターンです。

水は形がなく、丸い容器に入れれば丸くなり、四角の容器に入れれば四角になります。
病でも形を変えてくる病があります。
その時は水毒の治療をしなさいとの教えです。