太陽病、少陽病、開窮薬

東洋医学理論

2023年6月14日;(写真はインドネシア、バリ島ヒンズー教の寺院です。)

太陽病

病邪(ビョウジャ)が身体に侵入し身体の正気(セイキ)と初めて戦う場が、東洋医学の太陽病(タイヨウビョウ)です。

悪寒は太陽病

病邪が身体に侵入すると、身体は体温を上げ免疫力を上げようとします。
体温を上げるために身体の表面積を出来るだけ小さくするため縮こまります。また体毛が有った頃のDNAでしょうか、体毛を立て体温を逃がさないように鳥肌を立てます。その状態が悪寒(オカン)です。

太陽病の治療

太陽病は、悪寒・悪風(オフウ)を代表とする表寒(ヒョウカン)の状態です。
表寒のため治療法は体表を温める治療法になります。

太陽病の治療は体表を温め、体表の毛細血管を広げ血流を増します。免疫力が上昇すると考えられます。治療が上手くいくと悪寒が去り発汗を始めます。

目安の発汗量は「病邪の実」である実証と「正気の虚」である虚証により異なります。そのため様々な薬方が準備されています。
太陽病の治療原則は、温(オン)で散(サン)・発汗になります。

治療の虚実

体表を温める効力が弱いのが桂枝湯(ケイシトウ)です。やや強いのが葛根湯(カッコントウ)、更に強いのが麻黄湯(マオウトウ)、最も強力なのが越婢湯(エッピトウ)です。体表を温める力が処方ごとに違うだけです。

それを東洋医学では虚証(キョショウ)、中間証、実証(ジッショウ)、強実証(キョウジッショウ)と表現しています。

裏熱のある太陽病

太陽病(タイヨウビョウ)は、病が裏(リ)に及んでいないため表寒(ヒョウカン)です。
しかし表寒に裏熱(リネツ)を伴うことがあります。
例えば風邪で麻黄湯証(マオウトウショウ)の人は元々体力があり裏熱を持っている人が多いです。他に桂枝湯証(ケイシトウショウ)、石膏剤(セッコウザイ)や黄芩(オウゴン)などが合う人も裏熱がある場合が多いです。
温疫論(ウンエキロン)の温病(ウンビョウ)との関係もあります。

太陽病の治療の補助

表寒の状態を発汗をさせるために葛根湯(カッコントウ)に生姜汁を追加したりします。体表を温め発汗させるためです。

もう一つの方法は葛根湯大棗大(タイソウダイ。葛根湯中の大棗を増やす)です。表寒で締まった表の血管を緩めて血流を増し発汗させます。非常に効果が高い方法です。

太陽病では牛黄(ゴオウ)製剤を補助として用いる事があります。
また開窮薬(カイキュウヤク、カイキョウヤク)の麝香(ジャコウ)、青皮(セイヒ)なども用います。

牛黄は苦(ク)で寒(カン)、降(コウ)ですので解熱にも対応します。
牛黄清心元ゴオオウセイシンゲン(開窮が主作用の牛黄清心丸とは異なります)は、牛黄より実証(ジッショウ)で裏の熱にも対応します。

開窮薬(カイキョウヤク、カイキュウヤク)

牛黄(ゴオウ)は葛根湯(カッコントウ)との相性も良いです。
また裏熱(リネツ)のある麻黄湯証(マオウトウショウ)や桂麻三兄弟(ケイマサンキョウダイ)、柴葛解肌湯証(サイカツゲキトウショウ)など。裏熱が有るため牛黄清心元(ゴオウセイシンゲン)が合う場合が多いです。

開窮とは

牛黄清心元や牛黄清心丸、青皮(セイヒ)製剤は開窮薬としても使えます。
窮は穴の意味です。人間の穴です。目、鼻、耳、口、二陰の九孔(キュウコウ)です。脳卒中などの後遺症にも使用します。また経絡を通す働きもあります。

開窮薬の応用

四逆散(シギャクサン)証の患者さんの手掌に四逆散を載せ糸練功を取ります。
次に少量の開窮薬を手掌に載せ、次に四逆散を手掌に載せます。四逆散単独よりも非常にsmになるのが分かると思います。

四逆散以外にも抑肝散(ヨクカンサン)、駆瘀血(クオケツ)剤の桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、通導散(ツウドウサン)などでも非常に効果が高くなるのが分かると思います。

四逆散の処方構成内の枳実(キジツ)や桂枝茯苓丸の桂枝(ケイシ)は、それぞれ気塊(キカイ)や上気(ジョウキ)に対応するだけでなく、開窮薬としての働きも有ると考えられます。

少陽病

太陽病(タイヨウビョウ)を過ぎると、少陽病(ショウヨウビョウ)に入ります。

太陽病は上焦(ジョウショウ)の病ですが、少陽病は中焦(チュウショウ)を中心とした病です。中焦は鳩尾から下、臍までです。胃、肝臓、胆嚢、十二指腸、膵臓、肺の下部などです。

傷寒論の少陽病

傷寒論(ショウカンロン)では「太陽病は表証(ヒョウショウ)の病、陽明病(ヨウメイビョウ)は裏証(リショウ)の病、表証と裏証の両方を呈するのが少陽病」となっています。

少陽病の治療

太陽病では発表・発汗の治療原則が、少陽病では柴胡剤(サイコザイ)や瀉心湯類(シャシントウルイ)による中和・清熱・解毒に変わります。

少陽病の熱形

また太陽病での熱形は悪寒発熱(オカンハツネツ)ですが、少陽病では往来寒熱(オウライカンネツ)に変わります。
往来寒熱は、寒と熱が往来する熱形です。

往来寒熱は、朝方は平熱で夕方は微熱が出ます。その後、発汗し次の日の朝には平熱に戻ります。そして、また夕方に微熱が出ます。
日暮(ニチボ)頃、夕方の16時頃から軽い寒気が始まり、18時を過ぎると微熱が出ます。その後、発汗し平熱に戻ります。

往来寒熱の虚実

往来寒熱(オウライカンネツ)にも虚実(キョジツ)があります。
実(ジツ)は病邪(ビョウジャ)の実、虚(キョ)は正気(セイキ)の虚」です。

往来寒熱の実証

病邪が強い場合は実証です。お昼過ぎ頃から悪寒が始まり、夕方は微熱ではなく高熱になります。熱も38度を超える高熱になることもしばしばです。
その後の発汗も早い時間帯で発汗量も多いです。

このような実邪(ジツジャ)の場合は朝昼夕は柴胡剤(サイコザイ)で対応します。悪寒が始まりだした頃の日中に太陽病(タイヨウビョウ)の漢方薬の麻黄湯(マオウトウ)などを頓服すると、往来寒熱の期間が短くなり治癒が早まります。

往来寒熱の虚証

正気が弱い場合は虚証です。悪寒も弱く悪風(オフウ)程度です。夕方の微熱も高くなく37度前後、又は37度まで上がらない場合も多いです。
※悪風は通常は寒気がありません。冷たい水に触れたり、冷たい風に当たると寒気がする状態です。悪寒より弱い寒気です。
発汗も遅く、夜間に寝汗・盗汗(トウカン)として現れることも多いです。

往来寒熱の虚証の治療

虚証の場合、少陽(ショウヨウ)の虚証からやや太陰病位(タイインビョウイ)の漢方薬で対応します。

柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)や補中益気湯ホチュウエッキトウ(当帰トウキ大、又は人参ニンジン大の場合もあります)、和剤局方の人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)、清暑益気湯(セイショエッキトウ)、当帰六黄湯(トウキリクオウトウ)などです。
※人参養栄湯には温疫論、聖済総録、和剤局方の出典が有ります。漢方太陽堂では和剤局方の人参養栄湯を使います。

長引く往来寒熱

特に往来寒熱の微熱が1ヶ月近く続いた時は、補中益気湯人参大が合うことが多いです。
※「人参大」の表現は、補中益気湯に既に入っている人参を更に増量する意味です。

往来寒熱の時の食養生

少陽病位は肝臓の解毒能力や免疫力を高めないといけません。

食養生では虚証の場合、高タンパク、低脂肪、高カロリーを基本とします。
症状が強い時は油脂物は禁止します。
また少陽病は中焦(チュウショウ)の熱ですので清熱作用のある緑の野菜も多く摂ります。