症状から観る東洋医学の証

漢方コラム

2023年2月28日。写真は、青森県、奥入瀬谿谷です。

東洋医学の証

東洋医学は体表解剖学です。望診、問診、聞診、切診により体表に現れた状態や症状を捉え、東洋医学の証である病因の気血水、臓腑、病位の三陰三陽、病向、病性などを判断していきます。

身長に対する体重、年齢なども重要

生まれた時の赤ちゃんは、陽の時期です。成長し「女性は14にし血海通じ子が出来る身体」になると東洋医学では考えています。

20代後半くらいから身体が衰え、陰の時期に入りだします。白髪や脱毛、老眼、白内障や男性の前立腺肥大など変化が現れだします。年齢も考慮し病位を判断していきます。

頭痛なども陰陽を判断

肩こりや頭痛などが、患者さん自身が自覚していない目の疲労から来ることもあります。

胃腸の冷えと頭痛

東洋医学では胃が冷え反射的に生じる激しい頭痛は呉茱萸湯証。腸が冷え生じる激しい頭痛は桂枝人参湯証が該当します。

激しい頭痛には脳内の器質的疾患もありますので注意が必要です。また女性にしか起きない川芎茶調散証の頭痛などもあります。

口唇が乾燥している

発熱や一時的な脱水により口唇が乾燥することがあります。早急に水分補給が必要です。

女性の場合で常に唇が乾燥している人もいます。太陰病位の虚熱で温経湯証の決め手になることがあります。

胃腸の症状は複雑

腹部は心下部の付近に神経が集中しています。そのため右下腹部の盲腸、虫垂炎でも初期には胃の付近に痛みが生じたりします。急性膵炎の痛みを腸閉塞と勘違いしたり非常に複雑で危険です。

ゲップ、胸焼け

ゲップでも胃カタルの人は胃酸過多で胸焼けします。逆に胃酸の少ない胃アトニータイプの人は消化機能が弱く、胃での食物の滞留時間が長いため同様にゲップが出ます。

ゲップを伴う逆流性食道炎は安中散や生姜瀉心湯の適応が多いです。胃酸が多すぎても少なすぎてもゲップが出ます。ゲップが有るから胃酸過多で制酸剤とはなりません。

胆汁

胆汁の流れが悪くても油脂の消化不良で胸焼けがします。下痢の場合、細菌やウイルス感染、食中毒などの水様性の下痢の場合もあります。しかし胆汁の流れが悪く生じる脂溶性の下痢などもあり多様です。

潰瘍性などの基礎疾患のある場合などもあり複雑です。胃腸症状は誰にでもみられ一般的ですが、自己判断が難しい面もあります。

喉の詰まり

鳩尾から喉までの詰まりでは器質的異常が無ければ食道が収縮することにより生じる神経性の食道狭窄を疑います。患者さんでは「喉に癌が出来ている」と訴える方もいます。半夏厚朴湯証、逍遙散証、分心気飲証などで現れる東洋医学の梅核気、咽中炙臠です。

気咳

漢方で気咳と言われる喘息、気管支炎が有ります。ストレスなどで気管支が収縮して起きる喘息です。喉の詰まりである食道収縮の梅核気、咽中炙臠の代わりに気管支が収縮した咳です。

浮腫みも大事

心臓、腎臓、肝臓の機能低下が原因の場合や癌腫による場合、貧血が原因の場合もあります。

心臓

心臓が原因で心機能が低下した場合や心不全、心臓性喘息などは、実証、中間証では増損木防已湯。虚証では茯苓甘草湯、茯苓杏仁甘草湯、茯苓甘草湯合茯苓杏仁甘草湯の合方などが適応されます。

腎臓

腎臓が原因の場合は防已黄耆湯や半夏厚朴湯、柴胡剤加黄連茯苓など多数の証があります。

肝臓

肝臓が原因の場合は、肝硬変の腹水に伴う浮腫みもあります。またアルコールを飲む方では脳下垂体後葉からの抗利尿ホルモンの解毒代謝不足の場合もあります。

茵蔯五苓散、人参湯合五苓散、野蒲陶など多くの製剤があります。

血滞

浮腫が左右どちらかの足や腕に偏っている場合など血栓やリンパの流れが原因の事があります。放射線治療の後遺症でも生じる事があります。駆瘀血剤の適用です。血栓性なら駆瘀血剤の適用と直ぐに考えられますが、リンパの流れを改善するのも駆瘀血剤です。リンパは機能としては水毒の概念です。流れや滞りは血毒の概念が必要です。

肺の字は月の身体と、市の流通です。東洋医学で肺の臓は流通の意味もあります。気血水の滞りは肺の機能が阻害されているとも考えます。リンパの滞りは肺大腸経の治療で解消することがあります。代表的な証では、気滞、水滞は半夏厚朴湯、血滞は桂枝茯苓丸などです。

妊娠腎

妊娠経験のある女性では妊娠時の腎臓負担で、中年期に浮腫みだす人が多いです。血圧が上昇し数キロの水肥りになります。

当帰芍薬散や人参当芍散の適用の人が多いです。

精神神経症は東洋医学では五志の憂

不眠や鬱症状など五志の憂からだと判断できます。しかし身体の痛みや痺れ、機能不全などが五志の憂から来ることも非常に多いです。

太陽堂漢薬局では以前に「口が開けられない」と訴える女性を五志の憂の治療で治した経験があります。

女性の場合

生理痛や性周期、生理期間、生理量など瘀血や血虚など体質を判断するために重要です。

東洋医学で言う虚実とは

東洋医学では虚証、実証と病態や体質を大きく分けます。一般に、虚証は痩て貧血がちで元気が無い人。実証は筋肉質でガッチリし、或いは多血症で元気に溢れている人と言われます。

この虚実は一般の方に分かりやすく表現された記述です。本来の東洋医学の虚実とは意味が異なります。

東洋医学の虚実

虚証は正気セイキの虚の状態」であり「実証は病邪の実の状態」です。正気とは身体の免疫力や治癒力、病気に対する抵抗力、生命力などを現しています。病邪は病気の原因であり、ウイルスや細菌、自然環境などの外邪と他に内因が有ります。

治法は虚証に対しては正気を補う治療法、補法が行われます。実証に対しては病邪の実を除く治療法、瀉法が行われます。正気の質が弱い人は、風邪になると抵抗力が弱く、虚証の桂枝湯、香蘇散証になりやすいです。正気の質が強い人は、抵抗力も強く、それゆえに病邪の反応も強く実証の麻黄湯、越婢湯証になり易いです。

黄帝内経素問三部九候論篇第二十

必ず患者の肉体の肥痩を考慮し、気の虚実を調和しなければならない」と記されています。正気の虚は体力が質的に充実していない人に現れやすく。病邪の実は体力が質的に充実している人に現れやすいです。

実証になり易い人は、筋肉が発達し、声が大きく、上腹角が広く、汗をかきにくいです。虚証になり易い人は、筋肉が弱く或いは水太り、小声で、上腹角が狭く、汗をかきやすい傾向にあります。

虚実と補瀉

漢方薬には虚実があります。また体質にも虚実があります。お病気にも虚実があります。

虚証の人に実証の病態が出来る事があります。例えば、当帰芍薬散証の女性に子宮筋腫が出来た場合、子宮筋腫は実証の病です。体質の虚証に合わせると、実証の子宮筋腫の治療が出来ません。しかし虚証の人にも実証の漢方薬を使用する事が出来ます。

体質に合わない漢方治療は、服用期間を短く、或いは服薬量を減らすのです。

体質に合わない漢方薬

桃核承気湯は分量を変えても、いつも瀉剤の強実証の漢方薬なのでしょうか。

加減方で大きく変わる

桃核承気湯の構成薬味は、桃仁、桂枝、芒硝、大黄、甘草です。便秘でない人には桃核承気湯去大黄芒消にします。桃仁、桂枝、甘草だけになります。桂枝茯苓丸の構成薬味は桂枝、茯苓、牡丹皮、桃仁、芍薬です。桃核承気湯去大黄芒消より桂枝茯苓丸の方が牡丹皮が入っているぶん実証になります。

分量で大きく変わる

桃核承気湯の満量と比較し、服用量が半量、或いは3分の1量になったら、どうでしょうか。瀉剤として同じの力のはずが有りません。半量は通常小学校1年生の1日量、3分の1量は幼稚園の入園児の分量です。

服用期間と分量を調節することにより治療の幅が広がります。補瀉の力を自由にコントロールできます。ここに適量診の重要性が出てきます。

東洋医学の補瀉とは

補瀉は病の治療で補法をすれば治るか、瀉法をすれば治るか、最も重要な東洋医学の絶対ミス出来ない1番目の鑑別になります。一般に虚証に対する治療法が補法。実証に対する治療法が瀉法だと言われています。

本当の補瀉は

実は東洋医学の補瀉は、もっと様々な要素を含んだ治療鑑別法です。陰陽と言う概念が有ります。

  • 陰証は虚証、正気の虚。涼、寒、病位の三陰、大便では下痢、兎便、他
  • 陽証は実証、邪気の実。温、熱、病位の三陽、大便では便秘、他

虚実だけではなく、総合的な陰証、陽証に対する治療法が補瀉で、東洋医学の1番目の大きな鑑別です。

病因の気血水

2番目の鑑別は病因である気血水です。

  • 気は、上気、気滞、気虚
  • 血は、上焦の血熱、中焦の血熱、下焦の瘀血、陳旧の瘀血、血虚
  • 水は、表の燥、表の湿、裏の燥、裏の湿

東洋医学に於ける病気の原因を特定していくのが2番目に重要です。3番目の鑑別は、1番目の補瀉の虚実、寒熱、病位の三陰三陽を組合せて八綱分類と言う鑑別をしていきます。その後、臓腑や経絡、収散、升降など、大きな枠から小さな細部へ鑑別していき治療法が決まっていきます。

補瀉の漢方薬

補瀉の漢方薬は大別し7種類の薬勢に分けられます。

  • 峻補、大補、補
  • 平、中
  • 峻瀉、大瀉、瀉

の7種類です。

峻補

峻補には、紫荷車や鹿茸などがあります。紫荷車は胎盤です。プラセンタは紫荷車を熱処理したものです。しかし熱処理をすると効力は激減します。鹿茸は高貴薬の一つ、春に生え変わる鹿の骨化していない柔らかい角です。

峻瀉

峻瀉には、麻黄や竜胆、大黄や芒硝などの瀉下剤があります。麻黄はエフェドリン作用が有ります。吉益東洞の薬徴には「喘咳、水気を主治するなり」とあり、身体の表面を温め発散し利水、水毒、湿をさばく作用があります。喘息などの鎮咳、神経痛やリウマチなどの身体痛に使用します。

竜胆は訂補薬性提要に「大苦、大寒、肝火を瀉し下焦の湿熱を除く」と有ります。肝胆の実火である熱性痙攣、頭痛、目の充血、痛みなど。また下焦の湿熱の膣炎、性病、陰部湿疹などの下腹部炎症に使われます。

瀉下作用のある大黄、芒硝の他に巴豆、甘遂、大戟、芫花などの瀉下剤も峻瀉に成ります。

大補と大瀉

  • 大補には、白人参、当帰、黄耆、山茱萸、白芍薬、膠飴、大棗、他
  • 大瀉には、桃仁、枳実、桔梗、他

などが有りますが、又の機会にご紹介いたします。