2023年7月11日。写真は大分市、府内城の大手門を望む。
総論
東洋医学は、西洋医学と異なり内臓を直接診るのではなく、体表に現れた反応で患者さんの身体の状態を把握していきます。例えば望診、脈診、腹診などの切診、聞診も体表の反応から身体の中を診る技術です。
東洋医学は体表解剖学と言われる由縁です。そのため東洋医学では望診が必須となります。
望診
一般的に望診は皮膚の表面を通し身体から現れる信号を診ています。一方、望診の1つである舌診は口腔や舌の粘膜を通して診ますので皮膚を通して診る望診とは異なる情報が得られます。
舌診は東洋医学の望診の重要な項目の1つです。
舌診
舌診では内臓熱、炎症の状態、虚実、病位、燥湿、病因である気血水の一部などを診ていきます。
- 病の初期、太陽病位はまだ内臓まで病邪が入っていないため舌には変化がありません。
- 舌の燥湿や苔の状態、舌色などの健康な状態。基準の舌をまず覚える事から舌診は始まります。それには幼児、幼稚園生の舌を多く診る事です。幼児の舌には苔が無く燥湿中間で舌色も健康な状態の子供が多いです。
舌苔と燥湿
舌診の苔と燥湿は内臓の熱、炎症状態を診ます。少陽病位と陽明病位、太陰病位です。
- 少陽病は中焦。鳩尾から臍まで。肺の下部、肝臓、胆嚢、胃、十二指腸、膵臓など
- 陽明病と太陰病は下焦。臍から下。小腸、大腸、腎臓、膀胱、卵巣、子宮などの生殖器など
中焦、下焦に熱、炎症があると舌苔が生えます。熱、炎症の強さで苔の色と苔の厚さが変化します。
舌苔の色、厚み、燥湿
熱が強くなるほど、苔色は白色から黄色から褐色から黒色と変化します。同時に苔の厚みも厚くなっていきます。また苔の湿り具合も湿潤から乾燥へと変化していきます。
慢性肝炎など通常は白から黄色の苔が生え湿潤からやや乾燥気味です。肝炎でも末期になると太陰病位に入り、熱性が弱り苔は薄くなっていき湿潤してきます。
下焦の熱病、陽明病
また中焦より下焦の方が熱が強い傾向にあります。下焦の熱、炎症では陽が強く、脱水に近い状態、血液中の水分の減少を伴いますが多く、水分摂取を好む、口乾ではなく口渇状態の傾向にあります。便秘や糖尿病の初期、多血症、テーラー症候群、骨盤内うっ血などの瘀血では苔も厚く乾燥しています。苔色も黄色から褐色になる事が多いです。
太陰病の舌
病が進み陰病に入り太陰病になると下焦の熱がなくなり寒になります。しかし、太陰病では陽が少し残っているため微白苔、手足煩熱を呈し苔は湿潤しています。
更に陰が強くなり寒が強くなると、少陰病で苔は消失し舌は湿潤しています。
病の進行で纏めると
- 太陽病。表寒。苔なし
- 少陽病。半表半裏熱中。白苔から黄苔、燥から湿潤
- 陽明病。裏熱強。白苔から黄苔から褐色苔、乾燥
- 太陰病。裏寒中。微白苔、湿潤
- 少陰病。表裏表寒強。苔なし、湿潤
となります。
舌診。胃内停水
舌診で分かりやすいのは水毒の胃内停水です。胃内停水は教科書では胃部分を軽く叩くとピチャピチャと振水音がするとなっています。振水音がするほどでは無くても胃内停水は舌から胃までの消化器の浮腫みと考えれば分かりやすいです。
浮腫みですので向こう脛を抑えた時と同じように、舌の辺縁に歯型が付きます。直接、師匠や先輩に教示を受けると実の胃内停水、半夏の証か虚の胃内停水、白朮茯苓の証か直ぐに判断出来るようになります。
胃内停水は非常に多くのお病気の原因になります。
柑橘類の実と皮は異なる働き
柑橘類は酸っぱいです。東洋医学の五味は酸ですので、酸っぱい物は身体を温め、収の働きで身体を潤すと考えます。柑橘類の実は酸、温、収、潤です。
しかし柑橘類の皮部分は香りの精油成分が多く辛ですので、辛い物は身体を温め、散の働きで発散発表作用があり、燥で身体から水分を抜きます。
柑橘類の実は酸、温、収、潤です。柑橘類の皮は辛、温、散、燥になります。東洋医学の臓腑理論で考えると、実と皮は相剋関係、肺金から肝木で小宇宙を造っているのが解ります。
東洋医学では柑橘類の皮部分の香り成分である精油には毒があると考えています。そのため1年前後以上、陰干しで乾燥し寝かせ精油成分を減らし漢方薬として使用します。家庭で皮部分を使用する場合は陰干しするか、火を通すと熱で精油が抜けていきます。
季節の柑橘類
冬の柑橘類、温州ミカン、キンカン、橘、オレンジ、柚子などは体表を温める働きがあり気滞を発表発散します。漢方生薬では青皮、橘皮、陳皮などです。
白皮部分が割合に多い夏の柑橘類、ザボン、ボンタン、カボスなどは気塊を取る働きです。漢方生薬では枳実、枳殻などです。
暑い夏には、熱中症や脱水など身体の内側に熱が籠り気のうっ滞が起こり気塊が生じます。気塊を取る夏の柑橘類。寒い冬には、気温が下がり体表が冷えます。体表を温める冬の柑橘類。
自然は凄いですね。身土不二ですね。
気の厚さ薄さ
この冬の柑橘類の発表発散作用を用いて胃内停水の養生ができます。漢方薬や食材は香りが強いほど表面に働き、香りが薄くなるとやや深い部分に作用点が移ります。東洋医学では、気が厚い薄いと表現されます。
柑橘類で胃内停水を除く
青皮は香りの精油成分が多いです。また1年くらい寝かした橘皮はやや少なくなり、更に寝かした陳皮はもっと精油成分が少なくなります。胃内停水は体表ではなく、やや深い胃腸に使いますので精油、香りの少ない陳皮が最適になります。
漢方薬としては皮部分を使用します。皮部分を含んだジャムやマーマレードなど、カボスを絞るなどでも良いと思います。夏場に店頭にある柑橘類ではオレンジ、冬の柑橘類ですが輸入品で夏場でもありますなどです。
舌診。瘀血他
舌診から診る瘀血です。古方派では、瘀血は陽証であり陰証は血虚になります。
瘀血は静脈色です。腕などに静脈が見えますが青色に近い暗赤色の色です。瘀血が疑われる箇所を挙げます。
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- 舌下静脈の怒張。舌の裏側、舌下にある静脈が怒張している。瘀血が改善すると細くなり舌先側は殆ど消失します。
- 舌の表側に瘀点と言われる黒っぽい点が十数個集まり数か所現れます。これも瘀血が改善すると消失します。
- 舌の表側に瘀班と言われる青黒い班が現れます。
瘀点も瘀班も舌の辺縁に近いところに生じる場合が多いです。
瘀血の病態と食養生
これらの瘀血は方意としては陽明病の下焦の瘀血、桃仁、牡丹皮証などと捉えます。
瘀血の場合は舌が乾燥していることが多いです。逆に陰証の血虚では舌は湿の状態になります。
食養生では、瘀血のある人は緑の野菜を多く摂る事です。また日本茶も合っています。すこしアクの有る火を通す、アク抜きをする食材を多くします。また烏賊やアスパラカスは浄血作用が強いのでお勧めです。
その他
その他の舌で分かる事
脾虚、気虚
剥落苔、地図状舌と言われる舌苔が部分的に剥がれた舌は、脾虚と捉えます。内臓の機能低下と考えます。同様に脾虚、気虚と考えられる舌状に裂紋があります。裂紋は舌に裂溝があります。
脾虚の食養生
野菜や肉類は常温で放置すると直ぐに腐れます。常温でも腐れにくい食材であるイモ類や穀類を多くします。食養生ではイモ類や穀類は、後天の気と言われる脾の穀気を強めます。
鏡面舌
鏡面舌は舌の表面がツルツルで乳頭が消失したように見える舌です。予後は良くないと言われます。また八味丸証でも出現することがあります。
舌先
舌先は心又は上焦、舌奥は腎又は下焦に該当します。舌先が赤っぽい場合は心の臓に熱がある証、桂枝甘草証などです。食養生では、発散作用のある葉野菜、ハーブ類、香辛料を多くすると良いです。
百会診
人間の身体に異常が生じると、様々な反応が出ます。ツボも反応穴で診断にも治療にも使われます。東洋医学で使われる六部定位脈診も手首の内側で全身を診る事が出来る反応点です。今回はそれらの中で百会、五志、風毒をご紹介します。
人間の身体には十二臓腑に対する正経と奇経八脈が有ります。私の師匠である故入江正先生は、奇経は12有るとの信念で、11奇経まで見つけていらっしゃいました。他に十二経筋や十二経別なども治療に使います。
十二正経と奇経八脈
川の流れに例えると解りやすいです。十二正経が縦の流れだとすると奇形八脈は横の流れです。正経と奇経は交差し水が流れて行きます。その為、病で正経に異常が出ると必ず奇経にも異常が出ます。
任脉と督脉
最終的に、身体の異常は奇経の任脉と督脉に必ずでます。気功で最上級の技は、任脉と督脉を流す周天功です。東洋医学では任脉と督脉を流すと、正経も流れ病が消失すると考えています。百会はこの督脉上に有ります。
百会の場所
百会は頭頂部の少し窪んだ所です。百会の場所は、教科書では左右耳介の上部中央を結んだ線と鼻柱中央から後頭部の中心を結んだ線との交点となっています。実際は交点より少し前にずらした箇所が反応が強いです。
脈診や手掌診との違い
脈診や手掌診は細かい反応も取る事が出来ます。反応の強弱で言うと患部が最も強いです。それに比べ百会の反応はやや弱い感じがします。それだけに百会診で上がってくる反応は重要な証が多いとも推察されます。生体に強く影響を与える身体の異常。病の勢いが強く、急激に悪化してくる病。生命に関わる病などです。患者さんの訴えは殆ど百会で反応が出ると考えられます。
五志の憂
五志とは精神と心を指します。五志の憂とは、この精神と心の状態が強くなり過ぎたり、弱くなり過ぎた状態です。
東洋医学の病理
七情の内因無ければ六淫の外邪犯さず。七情とは、喜ぶ、怒り、憂い、思う、悲しむ、恐れる、驚くです。六淫とは、風、寒、暑、湿、燥、火です。
東洋医学では、七情と言う心の内なる原因が無ければ、外邪に犯されず病気にならないと考えています。
黄帝内経素問、陰陽応象大論篇第五
「人に五臓有り、五気を化して以って肝の怒り、心の喜び、脾の憂い、肺の悲しみ、腎の恐れを生ず。故に激しいストレス等の感情が強すぎると、気の働きが障害され内因となり、肉体的に強烈な刺激寒暑等の外邪が甚だしいと、肉体の機能が障害され病となる。過度の怒りは肝を傷り、過度の喜びは心を傷る。」
黄帝内経素問、宣明五気篇第二十三
「五并と言って、五蔵がそれぞれの精気を内蔵する力が抜けると、その精気がいずれかの臓に集中するようになる。肝に集中すると憂え易く、心に集中すると喜び易く、脾に集中すると畏れ易く、肺に集中すると悲しみ易く、腎に集中すると恐れ易くなる」五并は黄帝内経霊枢、九針論篇第七十八にも同様の記述があります。
五志の憂の診断
診断箇所は、督脉上の額の髪の生え際になります。督脉の神庭より半寸ほど下側です。該当する病では更年期障害、不眠症、うつ病、統合失調症、知覚神経障害、自律神経の異常、PMS、痴ほう症、発達障害、部分癲癇なども五志の憂に反応します。
五志の憂の診断の注意点
- 患者は顔面を床と垂直にします。センサーは床に平行に水平に入れます。
- 五志の憂の診断箇所の左右に小田顔面診の心の臓が有りますので、混乱しないようにします。
- 百会と額の中間程に五志の憂の診断箇所が、もう一か所あります。ここは床に直角にセンサーを入れます。2つの反応が同一になる確認が必要です。
風毒診
甲把南栄先生の腹診図は臨床において非常に使いやすい腹診図です。私は主に風毒塊と東洋医学の病因である気虚塊、気塊、痰塊、血虚塊、血塊上焦、血塊中焦、血塊下焦を使用します。
風毒塊
この腹診図の中に、臍の右上部分に風毒塊があります。このスパイラルは半時計回りです。南半球では時計回りになるそうです。地球の磁場との関係だと思われます。台風の風向きや古式茶道の男水、女水との関係があるかもしれません。
風毒診では東洋医学の風邪を診ます。西洋医学のウイルス感染とカンジタ菌、溶連菌の感染に反応します。
風毒の診断には幾つかの注意点があります
- スパイラルの中心点を書きます。
- スパイラスの先に矢印を書きます。
- このスパイラルは書いた本人には反応しません。理由は不明です。
- 甲把流の風毒塊で直接診る事もできます。