腹部の動悸としこり

東洋医学理論

2022年8月15日;(写真は、家伝薬の陀羅尼助製造家です。)

古方派(コホウハ)の腹診では、心臓部分の動悸を心悸(シンキ)と言います。
心臓の動悸と別に、腹部を触ると動悸に触れる事があります。

心下悸(シンカキ)、臍上悸(サイジョウキ、水分の動)、臍下悸(サイカキ、腎間の動)、左腹部大動脈の拍動などがあります。

心下悸の心(シン)とはどこでしょう。
東洋医学には、心と心包(シンポウ)と言う臓腑概念が有ります。心は君火(クンカ)との関連があり、心包は相火(ソウカ)との関連が強い臓腑です。
様々な学説が有ります。心包は心を包む臓器、或いは解剖学的な胃ではないかなど。現在も定まっていません。

五臓六腑

2,200年前の馬王堆医学では11臓腑の五臓六腑が見つかっています。心包は未発見でした。
それから400年後の黄帝内経(コウテイダイケイ)では心包が見つかり12臓腑の記載があります。現在の東洋医学の全臓腑が見つかっています。
心包の概念は難しいのだと思われます。

様々な動悸

心下悸(シンカキ)と別に。
心下痞(シンカヒ)、心下痞硬(シンカヒコウ)、心下痞鞭(シンカヒベン)他の腹証があります。人参剤や瀉心湯(シャシントウ)類、心臓疾患に現れる腹証です。

心下痞と心下悸

心下痞を呈する人参剤を手掌に載せ糸練功(シレンコウ)で見ると、剣状突起に反応があります。
心下悸は剣状突起下の鳩尾部分の動悸と考えます。体力が衰えている時やストレス時にも診られます。

臍上悸

臍上悸(サイジョウキ、水分の動)は水分(スイブン)のツボである臍の少し上の1~2cm当たりに動悸がします。
牡蛎(ボレイ)の証で出現する事が多い動悸です。実証では大柴胡湯(ダイサイコトウ)加牡蠣、小柴胡湯(ショウサイコトウ)加牡蠣。虚証では柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)、、、など。

臍下悸

臍下悸(サイカキ、腎間の動)は臍の下の動悸です。
龍骨(リュウコツ)の証に出る事が多い動悸です。
実証では柴胡加竜骨牡蠣湯(サイコカリュウコツボレイトウ)。虚証では桂枝甘草竜骨牡蠣湯(ケイシカンゾウリュウコツボレイトウ)、桂枝加竜骨牡蛎湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)、龍骨湯(リュウコツトウ)、、、など。

また臍の左腹部横から鳩尾にかけて動悸があります。抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)の使用目標となる動悸です。

腹腔内のしこり

ここからは専門家向けです。
腹腔内のしこり堅塊に対する薬味です。

1.気滞による腹腔内のしこりに対し

  • 木香
    中焦に働き五味は辛で散、五気は温で燥。
    気痛に対応し、腸の蠕動を亢進します。
    処方例では、帰脾湯、香砂六君子湯、、、
  • 檳榔子
    五味は苦辛、五気は温。
    利水作用があります。張腹満に使用します。副交感神経興奮作用があります。
    種子は檳榔子、果皮が大腹皮です。
    檳榔子の処方例では、女神散、九味檳榔湯、、、
    大腹皮の処方例では、分心気飲、分消湯、藿香正気散、、、

2.瘀血による腹腔内のしこりに対し

  • 牡丹皮
    五味は辛、五気は微寒。(良質な辛の牡丹皮を保存した容器には透明な精油の結晶が付きます)
    瘀血を去る、消炎、血小板凝集抑制作用があります。
    処方例では、温経湯、桂枝茯苓丸、折衝飲、加味逍遙散、、、
  • 桃仁
    五味は甘、苦、五気は平。(杏仁と似ていますが、桃仁を紙で潰すと油が紙に大量に付きます)
    駆瘀血作用があります。
    処方例では、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、、、

3.腹腔内の硬結の解消

  • 別甲
    五味は鹹、五気は寒。
    堅積、心腹癥瘕(チョウカ、腹腔内の腫塊)、消堅塊、強壮の働きがあります。
    子宮筋腫などに使われます。
  • 三稜
    五味は苦、五気は平。
    駆瘀血作用があります。我朮と同じような作用です。活血作用では三稜が強く、理気作用は我朮が強いです。(ガジュツの精油を残し胃腸薬にしたのが鹿児島県種子島の伝統薬の我神散ガシンサンです)