2023年8月15日。写真は福岡市海の中道です。
先祖返り
30年程前、末期がん患者さんの貧血に対応したことがあります。私の知る限りの漢方処方を考えました。しかし、どれも上手く適応しませんでした。
その当時に勉強してた書物に、困った時は「原方に返る」との記載がありました。漢方薬は原方の基本処方に加味をし、様々な処方が出来あがります。
加味方にて出来上がった処方が奉功しない時、最初の基本処方に戻ると、効く場合があるという事象が漢方薬の先祖返りです。難治性の場合に適応することが多いです。
貧血の処方は殆どが四物湯か、又は四君子湯の加味方から発展しています。今まで十全大補湯や六君子湯なども試しましたが上手く行かなかったのです。この末期がん患者さんには基本処方の四君子湯でずばり貧血が改善しました。
十全大補湯にも六君子湯にも四君子湯の薬味は入っています。しかし単純な四君子湯でないと効かなかったのです。
喘息の先祖返りの漢方治療
麻杏甘石湯が効いていた小児喘息が、途中から効かなくなることが有ります。麻杏甘石湯の先祖は甘草麻黄湯です。麻杏甘石湯にも甘草、麻黄は含まれています。麻杏甘石湯で治まらなくなった喘息が、先祖の基本処方の甘草麻黄湯を使用すると、また喘息の発作が治まるのです。
麻杏甘石湯は4味、甘草麻黄湯は2味の処方。薬味の数が少ない程、効果はシャープになります。それだけ甘草麻黄湯証の喘息は難治性なのだと考えられます。
薬味の数が少ないと、効き目はシャープとなります。薬味の数が多いと、体質改善力が増します。
甘草麻黄湯
金匱要略水気病篇、麻黄甘草湯を出典とする甘草麻黄湯は、咳などの発作止め頓服、或いは水腫に用いられる漢方処方です。故藤平健先生は、慢性の喘息に甘草麻黄湯を使用され多くの喘息患者さんを治されています。漢方臨床ノート治験篇。藤平健著。頓服薬の甘草麻黄湯を体質改善薬としても使われていました。
私も藤平先生の文献を元に甘草麻黄湯を使用し多くの難治性の喘息患者さんを治療しました。私の用いた分量は甘草3麻黄6の組合せです。他に甘草3麻黄3の処方もありますが効果に疑問を感じます。また脱汗の可能性もあります。甘草、麻黄の割合が1対2が良いように感じます。
藤平先生の文献では、甘草3から5グラム、麻黄6から10グラムの1対2を使用されていたようです。末では甘草末0.8麻黄末1.6を1日分とします。頓服量はその半量を1回分とします。
また甘草麻黄湯証の合う患者さんは難治性の喘息の場合が多いです。2味の甘草麻黄湯では体質改善は難しいと思われます。甘草麻黄湯証の体質改善薬として補中益気湯加人参を私は使用しています。
甘草麻黄湯は脱汗に注意が必要です。脱汗を起こした時は、牛黄製剤の救心や六神丸、茯苓杏仁甘草湯、茯苓甘草湯などで対応します。
甘草麻黄湯の加味方
喘息や気管支炎などの咳に使用する甘草麻黄湯は、加味をすると様々な処方に変化していきます。 甘草麻黄湯に杏仁、石膏を加えたのが、麻杏甘石湯。
麻杏甘石湯に桑白皮を加えたのが、五虎湯。甘草麻黄湯に桂枝、大棗、生姜、杏仁、芍薬を加えたのが、桂麻各半湯です。
麻杏甘石湯と五虎湯は服用し、症状が改善し咳が落ち着き出した頃に食欲が減じる方がいます。咳が酷い時は、麻杏甘石湯、五虎湯を服用しても食欲に変化はありません。漢方薬を服用し咳が軽くなると、食欲が減少する場合が多いです。薬量が多すぎるようになると身体が拒否を始めるのかもしれません。
食欲が一つの目安になります。麻杏甘石湯は胃腸の弱い方には半夏厚朴湯と合方したりします。五虎湯の場合は、咳が落ち着き出したら適量診を行い少しづつ減薬することをお勧めします。
桂麻三兄弟
桂麻各半湯は甘草麻黄湯の加味方でもありますが、桂枝湯と麻黄湯の1対1の合方です。桂枝湯証は悪風で自汗があります。麻黄湯証は表寒が強く悪寒のため自汗がありません。悪風と悪寒の証の合方です。
自汗がある場合は桂枝湯の割合を増やします。桂枝二麻黄一湯とし桂枝湯と麻黄湯の比率を2対1にします。
血液中の水分が減少し脱水状態になると反射的に口渇が現れます。自汗があり口渇もあれば、脱水を改善する石膏剤の越婢湯を麻黄湯と変えます。桂枝二越婢一湯です。桂枝湯と越婢湯の比率は2対1です。
この桂麻各半湯と桂枝二麻黄一湯、桂枝二越婢一湯の3処方を桂麻三兄弟と言われます。柴葛解肌湯などと同様に温病にも用いる処方群です。
桂枝二越婢一湯は自汗と口渇がありますが、より実証で自汗が無ければ桂枝一越婢二湯が考えられます。青皮剤と越婢湯の比率を変えると自由自在に方意を作る事が出来ます。
同じように桂麻各半湯、桂枝二麻黄一湯も自汗と虚実キョジツで判断し、より実証なら桂枝一麻黄二湯が考えられます。虚実は桂枝二麻黄一湯、桂麻各半湯、桂枝一麻黄二湯の順へ虚から実になります。こちらも青皮剤と麻黄湯の組合せで簡単に作る事ができます。