瘀血(オケツ)とは

2020年10月5日;(写真は熊野大社の那智の滝です)

日本漢方で言う瘀血

東洋医学の病因には気毒、血毒、水毒があります。
血毒の中に更に瘀血(オケツ)の概念があります。
「近代漢方で言う瘀血」と「日本漢方で言う伝統的な瘀血」とは意味が異なっています。

漢方処方応用の実際

古方派(コホウハ)の教科書である「漢方処方応用の実際(著;山田輝胤著、1967年)」には

1.瘀血の症状
口渇、熱感、唇、舌の辺縁が暗赤色、皮膚がくすんで浅黒く、汚らしい発疹、青筋、大便の臭気、、、。
2.瘀血の腹証
少腹硬満(ショウフクコウマン)、下腹部が膨満し、腫塊や抵抗がある。
少腹急結(ショウフクキュウケツ)、左側腸骨窩に擦過性の圧迫に対し、圧痛と索状物を認める。
」少腹とは下腹部の事です。左下腹部に抵抗と圧痛が認められると言う意味です。
と述べられています。

漢方診療医典

同じく「漢方診療医典(著;大塚敬節、矢数道明、清水藤太郎、1969年)」には

1.「少腹急結は瘀血の腹証で桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)を用いる、、、左側腸骨窩に現れ、指頭でこするように圧を加えると急迫性の疼痛を訴える。
2.「少腹満、少腹硬満は下腹部の膨満、、、下腹部の抵抗物を触れ、、、瘀血の腹証として現れ、大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)などを用いる。
と記載されています。

瘀血とは少腹急結、少腹硬満を伴う牡丹皮(ボタンピ)、桃仁(トウニン)等が適応する下焦の血熱であり、陽明病の方意であることが理解できます。

瘀血下焦(ゲショウ)の血毒

瘀血とは瘀血であり、下焦(ゲショウ)の血毒(ケツドク)が原因の血熱(ケツネツ)です。陽証、実証になります。

瘀血の薬味と薬方

薬味では、牡丹皮(ボタンピ)、桃仁(トウニン)をベースに大黄(ダイオウ)、芒硝(ボウショウ)、冬瓜子(トウガシ)などを用います。

処方では、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ)などがあります。

陳旧の瘀血

陳旧(チンキュウ)の瘀血には、虻虫(ボウチュウ)、裴蟲(シャチュウ)、水蛭(スイテツ)などを用います。

瘀血の裏は血虚

瘀血(下焦の血毒、血熱)の裏が、下焦の血毒、血虚(ケッキョ)です。こちらは陰証、虚証となります。
薬味では、当帰(トウキ)、白芍薬(シロシャクヤク)、川芎(センキュウ)、熟地黄(ジュクジオウ)などです。

処方では、当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、四物湯(シモツトウ)などが該当します。

中焦の血熱

また中焦の血熱は、柴胡(サイコ)、黄連(オウレン)、丹参(タンジン)などを用います。柴胡剤を中心に用います。
瘀血とは異なります。瘀血は下焦の血毒、血熱です。

上焦の血熱

上焦の血熱は黄連(オウレン)、黄芩(オウゴン)を中心に用います。
黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)、三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)などの瀉心湯が中心となります。

血毒の証

血毒の証は以下の4に分類されます。
1.上焦の血熱
2.中焦の血熱
3.下焦の血熱(これが瘀血)
4.下焦の血虚(瘀血の裏証)
臨床的には、これらが複雑に組み合わさり、患者さんの証が構成されることが多いです。

「瘀血」は、日本で発達した日本伝統漢方の独自用語です。
現在は、漢方専門の先生方へも瘀血の意味が混乱し間違って伝えられています。
このままでは、日本伝統漢方の先人が残された御教示が理解できない、或いは間違って解釈される可能性が有ります。