傷寒論宋版の桂枝湯条文

2023年1月13日;(写真は長野県白馬八方尾根です。)

桂枝湯

傷寒論(ショウカンロン)の最初に出てくる薬方が桂枝湯(ケイシトウ)です。
煎じ方、飲み方、改善例、判断基準など非常に参考になります。

煎じ方、飲み方

傷寒論宋版(ソウバン)桂枝湯条文より
桂枝湯の方・・・水七升を以て微火(ビカ)に煮て、三升を取り、滓(カス)を去り寒温を適(カナ)え一升を服す。

  1. 傷寒論の1升は現代の1合位。水7合を半分弱の3合に煮ます。
    水の量はもう少し少なくても良いです。
  2. 「微火に煮て。」トロ火で煮る。
  3. 「滓を去り。」煮たら熱い内に滓を取る
  4. 「寒温を適え。」飲み頃の熱さにし。
  5. 「1升を服す。」約1合を飲む

煎じ方、飲み方が記載されています。
次には「補助剤の飲み方。効果判定」が書かれています。

補助剤の飲み方、効果判定

傷寒論宋版 桂枝湯条文より
服し已(オワ)って須臾(スユ)にして熱稀粥(ネツキジュク)一升を啜(スス)り、以て薬力を助け温服すること一時許(バカリ)ならしむ。遍身(ヘンシン)、漐々(チュウチュウ)として微(スコ)しく汗あるに似る者、益々(マスマス)佳(カ)なり。水の流離(リュウリ)する如くならしむべからず。病、必ず除かず。

服し已って須臾にして

薬方を飲み終わって少し時間を開けて。

熱稀粥一升を啜り。以て薬力を助け

続けて薬力を助ける補助に熱い薄い粥を1合すすり。
証(ショウ)により補助剤は変わります。桂枝湯証では熱い薄い粥です。

温服すること1時許ならしむ。

服用後2時間様子を診る
薬効の判断時間が記されています。急性の桂枝湯証では1時許(現代の2時間)。
服用2時間後は現代薬理学で考えると血中濃度が一番高くなる時間です。
効果判定は、急性、慢性、陳旧など証で異なる場合があります。

遍身、漐々として微しく汗あるに似る者、益々佳なり。

全身から汗がにじみ出て、少し汗がある状態が良い。
虚証(キョショウ)は少し発汗、葛根湯(カッコントウ)証、麻黄湯(マオウトウ)証と発汗量が多くなります。虚実で発汗量は異なります。治療の程度の目安をどの程度か知ることです。

水の流離する如くならしむべからず。病、必ず除かず。

水が流れるほどの発汗があると、病は良くならない。
証に合わない強すぎる治療薬力が証より強いと良くならないと記述あります。

治療を止める目安

「治療の目安」が書いてあります。

傷寒論宋版 桂枝湯条文より
若(モ)し一服にして汗出(イ)で、病差(イユ)れば後服(コウフク)を停(トド)む。必ずしも剤を盡(ツク)さず。

一服にして汗出で、病差れば後服を停む

1服で汗が出て病が治れば、続けて飲むのを止めます。治療終了の目安。やり過ぎないよう治療を止める。

必ずしも剤を盡さず

1日分、全部を飲む必要は無い。

次に桂枝湯を飲んでも「良くならない時の対処法」が書いてあります。

通常の服用で良くならない場合

更なる対処法が書いてあります。

傷寒論宋版 桂枝湯条文より
若(モ)し汗(アセ)せずんば更に服すること前法による。また汗せずんば、後服は少し其の間を促し半日許(バカリ)に三服を盡(ツク)さしむ。

若し汗せずんば更に服すること前法による。

もし汗が出なかったら前の様に飲む。
1回目の服用2時間後、発汗しない時は再び服用する。

汗せずんば、後服は少し其の間を促し

それでも汗が出なかったら、服用間隔を短くする。2回目でも発汗しない時は2時間も開けずに次を飲みます。
1回目の服用2時間後は、1回目服用の最高血中濃度の時間です。
その時に2回目を服用すると、1回目と2回目の血中濃度が重なり桂枝湯の血中濃度はかなり高くなります。その後、3回目の服用間隔を短く飲めば更に血中濃度は上昇します。
最高血中濃度の時間に合わせて服用することを、経験的に1800年前に理解していた事に驚きです。

半日許に三服を盡さしむ

半日の間に3服飲みほす。

治療法の最後は「重症の場合の対処法」

傷寒論宋版 桂枝湯条文より
若(も)し病重き者は一日一夜服し周時(シュウジ)之を観る。一剤を服し盡(ツク)して病証猶(ナオ)ある者は、更に服を作る。若し汗出でずんば乃ち服すこと二三剤に至る。

若し病重き者は一日一夜服し周時之を観る

もし病が重い場合は1昼夜、飲み続けて病の経過を観察する。

一剤を服し盡して病証猶ある者は、更に服を作る

1日分を服用しつくし、病が治らない者は更に1日分を作る

若し汗出でずんば乃ち服すこと二三剤に至る

もし汗が出なければ2~3日分を服用しても良い。
1日で3日分を服用する方法は、桂枝湯証だからです。当然、陰陽虚実により異なってきます。

最後に食養生です。

傷寒論宋版 桂枝湯条文より
生冷(セイレイ)、粘滑、肉、麺、五辛、酒酪(シュラク)、臭悪等の物を禁ず。

  1. 太陽病(タイヨウビョウ)は表寒(ヒョウカン)のため補助に熱い粥を啜(スス)ります。逆の身体を冷やす「生冷」は避けます。
  2. 次の病位である少陽病(ショウヨウビョウ)では油脂が駄目です。少陽病位に進行しないよう「肉、酒、乳製品」を避けます。
  3. 麺は蕎麦などの冷やす麺なのか、ウドンなどを指すのか。2000年前の中国南部の麺が分かりません。
  4. 「臭悪」はニンニク(漢方名;大蒜タイサン)、ニラ(漢方名;小蒜ショウサン)、ネギ(漢方名;葱白ソウハク)などですが、宗教的に忌み嫌わているからだと言われています。

傷寒論の桂枝湯から学ぶ事

傷寒論の桂枝湯の条文には

  1. 煎じ方
  2. 補助の飲み方
  3. 薬効の判断時間
  4. 治療の目安
  5. 初回の治療で良くならない時
  6. 重症の時
  7. 食養で禁止すべき事

詳しく書かれています。
急性の桂枝湯証の患者さんに対しての処置法、対応は傷寒論に書いてありますので分かりました。

それでは、少陽病位の小柴胡湯(ショウサイコトウ)ではどうなるのだろうか?陽明病位の白虎湯(ビャッコトウ)では?承気湯(ジョウキトウ)では?少陰病位の真武湯(シンブトウ)など他の証では?どうなるのでしょう。
急性時だけでなく、慢性時の対処法や養生法はどうなるのでしょう?

傷寒論の桂枝湯からの発展

傷寒論宋版には桂枝湯の煎じ方から、急性時の飲み方、養生法まで書いてあります。
桂枝湯以外ではどうなるのでしょうか?

例えば煎じ方でも、附子剤(ブシザイ)は痛み目的では50~60分。目的が新陳代謝機能を改善させる時は60分以上煎じます。50分以下では毒性が残ります。
煎じる時間により抽出される成分、分解される成分、合成される成分がそれぞれ異なります。
一般的に実証(ジッショウ)の薬方は短時間で煎じ、虚証(キョショウ)の薬方は長く煎じます。

慢性病では症状が改善し、糸練功(シレンコウ)で7合以上なら減薬を始めます。(癲癇テンカンなどは10合でも減薬しません)
満量から2/3量、1/2量、1/3量へ適量診をしながら減薬していきます。
治療終了は、糸練功で「要治療(ヨウチリョウ)」の反応が消失することです。病状によっては「要治療」の反応の消失後2~3ヵ月の服用をお勧めすることもあります。

食養生では、発酵は炭水化物が酸に変化し生じます。発酵の強い物の摂り過ぎは、酸により相剋の脾の臓を傷つけます。
また玄米は降(コウ)です。血圧の高い人や血糖値の高い人には合いますが、虚証の人には長期には問題が生じます。
果物でも柑橘系、イチゴやリンゴなどのバラ科、ウリ科等働きが異なります。
肉でも、牛肉、豚、鶏、マトン、馬肉、それぞれ働きも帰経(キケイ)も異なります。

「身体を冷やすから、悪いから、絶対に食べない」事を改めます。
「身体に良いからと、食べすぎる」事を改めます。

極端な事は止めます。「食養生は、いい加減な、ホドホドが最も妥当です
病の時は、専門家がご指導くださります。

桂枝湯の条文を見本に、証に合わせ私達が煎じ方から養生法まで考えられるようになると、理想的な治療が出来るようになると思います。