2023年1月27日。写真は、鹿児島県霧島市高千穂の峰の火口です。
一般的な食養生
- 夏に出来るものは身体を冷やし、冬に出来るものは身体を温める。
- 南に出来るものは身体を冷やし、北に出来るものは身体を温める。
身土不二から考えても、そういう傾向があります。その通りだと思います。
升降、寒熱と陰陽は違うのか
また「地上に出来る果物は身体を冷やし、根物は身体を温める」ともよく言われます。升降では「果物は降、根物は升」です。果物の降を寒、根物の升を温と間違われています。寒熱と升降は別の概念です。
「天は陽なり地は陰なり」です。「陰の中で出来る物は身体を温め、陽の中で出来る物は身体を冷やす」も勘違いです。「熱も陽の一つ、寒も陰の一つ」ですので、そういう面もあります。初心者はそれでも構いません。患者さんへ食養生を指導する専門家は、そういう分けにはいきませんが。
正確には「陰の中で出来るものは陽、陽の中で出来るものは陰の傾向がある」が正しいです。天に近い陽の中で出来る桂枝は、身体を冷やすでしょうか。桂枝は身体を温めます。陰陽と寒熱は概念が異なります。漢方の専門家には周知のとおりです。
緑字は古典からの引用。赤字は古典から学んだ概念
食養生の寒熱
寒熱に五味と燥湿を加えると様々な事が理解できるようになります。食事の気味、薬味の気味と言われるのは五気と五味です。
五気の寒、涼、平、温、熱。五味の酸、苦、甘、辛、鹹です。
五味による五気である寒熱への影響は
- 苦いは、身体を非常に冷やします。
- 鹹は、身体を冷やします。
- 甘いは、少し身体を冷やします。
- 辛いは、身体を非常に温めます。
- 酸っぱいは、身体を温めます。
「牛蒡は根物なので身体を温める」と言われる専門家もいらっしゃいます。牛蒡は苦み、アクが強いため身体を冷やします。根物である漢方薬味の大黄、黄連、黄芩も身体を冷やす事を思い出してください。何故、大黄、黄連、黄芩が身体を冷やすか。専門家の方はご自身でお考え下さい。
食養生の理論は難しくない
「梅は身体を冷やすから、初夏に取れた梅で梅酒を作り暑い夏に飲む」と聞いたことが有ります。梅はバラ科です。バラ科の五味は酸です。酸は温です。バラ科はリンゴ、イチゴ、カリン、梨、桃、杏、梅などです。
冷やすのではなく、逆に微温で少し温める傾向にあります。例外として梨だけが甘で少し涼に成ります。微温、微涼などの僅かな寒熱に拘る必要はありません。大事な事があります。バラ科の五味は酸ですので、収散は収です。収は潤です。バラ科は寒熱より潤が大事です。酸は収、収は潤です。
子供の頃に高熱が出ると、いつも母にリンゴをすって頂いたことを覚えています。小児の発熱に対し脱水を防ぐ食文化だったのでしょう。バラ科の果物は夏の火照った身体を潤し熱中症の予防にもなります。以前、濃い痰の麦門冬湯証に梨の汁の温服をご紹介しました。乾燥した気管支を梨で潤わし、気管支の炎症を微涼の梨で対応します。
タフラマカン砂漠に3回足を運びました。麻黄やサフラン、紅花の産地です。この地で孫悟空が桃を盗み追放された伝説の地です。ホテルには常に宿泊客に孫悟空が盗んだ蟠桃と言う平たく固く甘い桃が置かれていました。砂漠で乾燥した身体を潤わす身土不二です。
食養生の理論は難しくありません。昔から代々伝わってきたことを大事に、自分の感性を磨くだけです。
専門家が食養生で最低必要な理論
食養生の理論と、漢方薬味や漢方処方の理論は全く同じです。これを理解すると、あらゆる漢方薬味、漢方処方を把握できる能力が付きます。同じ東洋医学ですので当たり前ですけど。
形象薬理学
先ず形象薬理学が基本です。
- 根物は、水分を吸収し地上系へ送ります。また根に蓄えられた栄養分は春、発陳の時期に根から地上系に送られます。根物は上昇の気、升です。
- 葉物は、水分や酸素を放出します。蒸散で散です。
- 実物は、実は熟し地に落ちます。降下の気、降です。逆にお酒は升です。お酒と実物は升降を打ち消し相性が良いです。薬酒にも応用されます。
- 芽の新芽や胚芽は、胚芽から新芽が出ます。発泄です。新芽や豆類のピーナツやカカオなどの胚芽により皮膚病が発泄し酷くなる場合も有ります。
似臓補臓
似臓補臓も形象薬理学の1つです。心臓病にはハツを、肝臓病にはレバーを。毛細血管の浮き出た赤い酒査鼻には赤い紅花を、硬いイボには硬い薏苡仁を服用します。
身土不二
東洋医学独特の概念に天人合一の思想があります。「陽気の集まる所は天なり、陰気の集まる所は地なり。万物は消長によって構成される。人間もまた天地間の一物であり、大自然の宇宙に対し小宇宙である」
大自然が大宇宙であり、人間は小宇宙です。人間の臓器や患部も小宇宙です。臓器や患部の小宇宙である集合体により、大宇宙の人間が構成されます。大宇宙の中に小宇宙あり、更に小宇宙の中にまた大宇宙、小宇宙があります。地球、太陽系、銀河と同じです。患部の小宇宙を含め大宇宙である生体全体を診るのが東洋医学です。
身土不二の身が小宇宙であり、土が大宇宙です。小宇宙は大宇宙に生かされています。身の小宇宙が人間、土の大宇宙は季節や住んでいる土地、環境、仕事、人間関係なども含まれます。
一物全体
一物全体も小宇宙の概念です。成分で食べるのではなく食物全体として食すことです。
「神様が、或いは大自然が造ったものに無駄なものは無い」が原則です。
「大自然の物は、必ず毒消し中和する物が含まれ太極に成っている」
「地球上で生まれた病は、地球上にある物で治る」です。
専門家として食養生のポイント
五味のポイント
- バラ科や柑橘系の果物は酸に入る場合が多い。
- 香りの強い紫蘇や薄荷は辛です。
- 濃い緑の野菜はアクが有るため苦クに入ります。生ではなく、出来るだけ温野菜にします。アクの一つシュウ酸は加水分解ではなく熱分解します。ボイルじゃなくフライパンで炒めてもシュウ酸は分解します。
- 穀物や豆類、イモ類は甘に入る場合が多いです。
- 黄色野菜や淡色野菜も甘に入ります。
- キノコなどの菌糸体も甘に入ります。
五気に関してのポイント
- 発酵や干した物は温に傾きます。スルメ、味噌、酢など他発酵食品。
- 穀物の中で玄米や蕎麦は涼です。
- 脊椎動物は温に傾き、無脊椎動物は涼の場合が多いです。ただし海老、牡蠣肉、貝柱は温です。
- 肉では牛肉の強温、鶏肉の微温、豚肉や猪の平から涼、馬肉の涼です。火傷に用いる紫雲膏は豚の脂で作ります。
燥湿
五味と燥湿の関係は五行理論を参考に
- 苦、辛は燥です。
- 鹹、酸は潤です。
燥湿に関してのポイント
- 葉野菜は蒸散作用がありますので散で、燥に成ります。
- 根菜類は土から水分を吸うので、収で、潤に成ります。
食養生 応用編
後は応用するだけです。
ミカン、柑橘類
柑橘系は温で潤です。潤が大事です。特に冬場の温州ミカン、橘、キンカン、柚子、オレンジなどは酸で温の傾向があります。体表を温める力が強く風邪などの予防になり、甘い傾向があります。漢方薬味では陳皮、青皮、橘皮など冬の柑橘系で発表の薬です。
夏場に出来る柑橘系も酸です。甘みより酸っぱさが強く皮の白い部分が多くなります。レモンやカボス、夏ミカンなどです。酸が強く、味が厚く深く入る傾向にあります。漢方薬味では枳実や枳殻など夏の柑橘系で気塊の薬です。
魚
甲殻類は身体を冷やす傾向にあります。蟹などが代表です。漢方薬味でも裴蟲などがあります。背骨のある物は冷やす傾向も弱まります。
また遠洋物は長距離を泳ぐため筋肉が赤い赤味の魚に成ります。マグロなどです。近海物は長距離を泳がないため白味の魚が多くなります。鯛やヒラメなどです。遠洋のマグロや川魚は身体を温める傾向にあります。
パイナップル
私が所属する漢方研究会で質問を受けました。「パイナップルは南で取れ夏の果物なので身体を冷やす」のではと質問を受けました。時間がなく「温めます」とだけ答えました。後日、質問をされた先生に電話でお答えようとしました。しかし質問が匿名形色だったらしく誰からの質問だったのか調べられませんでした。
今回の食養生はパイナップルの質問をされた先生へ答えたく書きました。パイナップルは酸で潤です。夏に出来る涼性に、プラスで酸味の温性が加わります。寒熱はある程度が中和されています。大事なのは夏の身体を酸味で潤すことです。
品種改良で甘くなった果物
果物は本来は酸味です。しかし品種改良で甘くなってきています。酸味の寒熱は温です。冬にナマコを酢醤油で食べたり、蟹を酢の物で食べるのも、ナマコや蟹の身体を冷やす働きを酢の酸味の温で中和しています。
甘いは微涼です。そこまで冷やす力は強くないです。太陰病の胃腸虚弱に小建中湯など膠飴と言われる麦芽の砂糖を入れます。太陰病の虚熱に対応しているのかもしれない膠飴の冷やす力は弱いです。それより甘みで腹直筋を緩める方が大事だからです。品種改良で甘くなった果物でも酸は酸です。
自然はいい加減です。寒いはずの冬に暖かい日もあります。自然と同様に人間の身体も陰陽が決められない事が有ります。東洋医学は、白黒ハッキリしないファージーな部分を認めることから始まります。そのファージーな中で重要ポイントを抑えることです。
弱い効力を無視し、強い効力だけ見ていくことです。小さい要素に拘らず身体に影響を与える強い要素だけ見ていきます。
人の話で判断せず、ご自分で確認を
寒熱を詳しく知りたければ、入江フィンガーテストや糸練功シレンコウ、オーリングテストが出来る先生は、間中喜雄先生や入江正先生のツーメタルコンタクトで確認が出来ます。
どうですか。ミカンもパイナップルも食する部分は温オンです。品種改良による甘いミカンも温の確認が出来ましたか。
頭で悩み考える前に、ご自分で確認できる技をお教えしてきました。私は代々受け継いだ技を示し紹介するだけ、技を磨くのは先生方ご自身です。
より正確にツーメタルコンタクトにて寒熱を調べたい時は、ご自分の体温に近い程度まで調べたいものを温めると、細かい微温、微涼も判断ができます。しかし細かくしても生体に与える微温、微涼の影響は大したこと無いです。面倒くさがりの私はしませんが。
興味のある方は五色なども勉強されると更に理論が深まります。私もまだまだですが、収散、升降まで考えられると、もっと貴方の食養生は発展すると思います。