2020年7月29日。写真は福井の黄連の自生地です。
仏教と漢方
日本漢方の代表的な古典に傷寒論、金匱要略、傷寒雑病論が有ります。その傷寒論を日本に筆写し、伝えたのはお坊様達です。
空海と最澄
高野山を開かれた空海、弘法大師は真言宗の開祖です。空海は中国にて傷寒論、康平本を筆写し日本に持ち帰っています。また天台宗の開祖である最澄も同じ傷寒論の古本である康治本を筆写し持ち帰っています。
栄西禅師
日本へ臨済宗を伝えた栄西禅師は、喫茶養生記を記しています。栄西禅師はお茶を日本にもたらしました。お茶は細茶と言う漢方薬です、薬用から食用に転用された漢方薬です。現在も様々な漢方処方に配合されています。川芎茶調散、他。
喫茶養生記にはお茶の効能だけでなく、食養生や養生法の他に、桑の葉を使った漢方治療法なども記載されています。仏教と漢方、一つの御縁かもしれません。
有効成分で説明できない漢方
風邪や肩こりに使われる有名な漢方薬に葛根湯が有ります。葛根湯の構成薬味は葛根、麻黄、桂枝、芍薬、大棗、生姜、甘草です。
有効成分をそれぞれ見ると、葛根はダイゼイン等のイソフラボン誘導体、麻黄はエフェドリン、芍薬はペオニフロリン、甘草はグリチルリチン。現在判明している有効成分を集めて葛根湯を造っても効きません。風邪にも効かず肩こりも取れません。何故でしょう。生薬から作る葛根湯なら効くのです。
甘草から作られるグリチロン
グリチロンと言う慢性肝炎の医薬品が有ります。免疫を調節し抗アレルギー作用、抗炎症作用があります。肝臓の炎症を抑え、肝細胞を増殖し、抗発がん効果があり、肝機能を改善します。
グリチロンは漢方薬の甘草から造られます。甘草からグリチルリチン酸を抽出します。更に化学的に生合成しグリチロンが出来ます。肝機能改善作用は、化学的に製造されたグリチロンより、元のグリチルリチン酸の方が効果が高いそうです。更にグリチルリチン酸より、元の生薬の甘草の方が肝機能改善作用が高いと言われています。
川芎と当帰
漢方薬の川芎と当帰は同じ血虚、貧血、低血圧、黄体機能低下等の病態に使用する薬味です。ガスクロで定性分析をすると同じ成分ピークを示し鑑別が出来ません。
同じ成分の川芎と当帰ですが、漢方では川芎は上焦、鳩尾から上に使い、当帰は下焦、臍から下に使います。川芎はの香りは強烈で、川芎を置いてゴキブリ避けに使う場合もあります。味は舌を刺激します。当帰は甘い良い香りがし、食べると美味しいです。成分が同じでも2つの薬味は香りも味も異なります。
女性に効く漢方薬
当帰芍薬散と言う漢方薬が有ります。元々は妊娠中の腹痛に使う漢方薬です。現在は不妊症や貧血、腎炎、生理痛、生理不順など幅広く使われている処方です。何故か、女性には効きますが男性には効かない漢方薬です。
性別で効果が変わる漢方薬
漢方薬には男性にしか効かない漢方薬、例として柴胡加竜骨牡蠣湯。
女性にしか効かない漢方薬、例として加味逍遙散。肝硬変で女性ホルモンを代謝できなくなった男性には使用することがあります。
私達のような現代薬理学を学んだ人間は、当帰芍薬散の構成薬味である当帰の成分は精油成分ブチリデンフタライド、芍薬はペオニフロリン、白朮はアトラクチロン。それ故、当帰芍薬散の効能、働きはこうだと考えます。
私の師匠の故入江正先生は当帰芍薬散証の病態の患者さんを針1本で治療しました。その時、私は愕然としました。針に当帰芍薬散の成分は関係ありません。私が20年かけて学んだ当帰芍薬散の当帰の成分は、芍薬は、白朮は、関係ない、無駄だったのか。
判明している成分で、作用や効能を語る事はエビデンス、証拠、裏付けが有り、誰でも納得できる素晴らしい医学、文明です。しかし、東洋医学にエビデンスは有りません。数千年かけて繰り返された人体実験により、副作用や効能が確かめられた疫学調査のデータであり結果です。
東洋医学の漢方、鍼灸、導引の技術は、代々伝えられた経験医学、文化です。導引とは生体、按摩、気功などです。文明と文化の違いです。東洋医学にはエビデンスは有りません。しかし大量の人体実験によって学んだ医道が有ります。
この地球上で出来た病は、この地球上の物で必ず良くなる
黄連という漢方生薬が有ります。苦みが強いです。臓腑では五味は苦みの特徴で、心の経絡に属します。瀉剤で消炎、清熱作用が有ります。君火に属します。
朝鮮人参は甘い
朝鮮人参は漢方の教科書では、苦くて甘いと成っています。しかし、それは質の悪い人参です。質の良い朝鮮人参は見た目も渋色が無く苦みもありません。苦みは竹節人参の特徴で相火に属します。苦みには消炎、清熱作用が有ります。質の良い人参は甘く君火に属します。
黄連と人参
朝鮮人参は甘く、身体を温める補剤です。黄連は苦く、清熱作用があり瀉剤です。それぞれ相反する作用、働きの君火の生薬です。黄連は清熱ですので、日当たりの良い所に育つと考えがちです。人参は補剤ですので、暗い日当たりの悪い所に育つと考えがちです。実際は、こぼれ日の少しだけ日が当たる林の中に両方とも育ちます。黄連が育つ所に人参が育ち、人参が育つ所に黄連が育ちます。相反する生薬が同じ環境で育つのを最初に見た時は衝撃でした。
質の良い陽剤の人参と陰剤の黄連は同じ君火で相反した生薬です。生薬の自生地でも陰陽のバランスを取り小宇宙を形成しています。
トリカブトの群生
釧路湿原を馬で廻ったことがあります。馬ですので人間が入れない野山にも入っていけます。その時、トリカブトの群生を見つけました。
漢方名は附子。塩水を付け炮じて毒抜きをします。生のトリカブトは猛毒で弓矢に塗って毒矢を造っていたと聞いています。附子の生えている1坪以内には、必ず附子の毒消しが自生していると言われます。これも小宇宙。
「この地球上で出来た病は、この地球上の物で必ず良くなる」相反する陰陽が創る小宇宙。漢方の世界観です。