修行した弟子たち

漢方雑記

2020年7月20日。写真は百道浜の福岡タワーです。

時代で変わる漢方

日本の漢方は明治政府の西洋医学一辺倒の政策にて一時消滅の危機に瀕した時代があります。
僅かな医系の先生方と、関西を中心とした薬系の先生方が伝統漢方を細々と、しかし力強く伝え残した時代です。

その後、薬系漢方が徐々に全国に広がり日本漢方は薬系にて全盛期を迎えます。
漢方が保険適用され、1970年代より徐々に医系でも漢方を使われる先生方が、ごく少数ですが増えて行きました。
病院では、漢方薬の小柴胡湯が化学薬品の副作用防止のために使われていた時代です。

その当時、漢方の意外な効果や東洋医学の不思議さに気づかれた医系、薬系の先生方は、今まで学んだ西洋医学や薬理学を捨て、本腰で漢方、東洋医学の世界へ入ってこられました。私もその一人でした。

終わりの無い勉強と研究

好きで始めた漢方。でもそれだけで良いのでしょうか。
西洋医学で治らなかった患者さんが劇的に改善される喜び。
患者さんから感謝の言葉をいただく喜び、嬉しいです。
でもそれだけで良いのでしょうか。
今まで勉強された漢方の知識と技、それで十分なのでしょうか。

時代は変わり、西洋医学でも治せない。最後に藁にもすがる思いで漢方を頼り、治らなかった患者さんがいらっしゃいます。
漢方、東洋医学は、終わりの無い勉強と修行です。
最初に漢方に出会った時の意欲と努力を、漢方に携わる間は続けて行くことが大事かもしれません。

治せない自分に気付く

漢方を勉強し始め、3から4年すると60処方位をマスターします。
覚えた漢方処方を使い、多くの患者さんが治っていきます。
時には短期間で症状が取れる著効も経験します。西洋医学で見放された患者さんも治っていきます。
漢方の素晴らしさに触れ、自分の腕に自信が付いてきます。

勉強しても治せない

更に5年以上10年程、漢方を勉強します。使える処方も100を超えてきます。
その頃、治せない患者さんに気付き出します。
治した記憶は残り、治せなかった記憶は消えていきます。自分の頭の中には、治した患者さんの記憶しか残らないからです。
初めて治せないことに気付き出す時です。

治せない為に更に勉強を続けていきます。
漢方を始め10から20年過ぎると、200処方以上を使えるようになります。
漢方ではベテランの仲間入りです。でも治せないのです。

努力を重ね続けます。しかし治癒率は上がりません。
30年前、尊敬する黙堂会の柴田良治先生の治癒率が20パーセントとお聞きしたのもこの頃です。
私は薬歴カルテを全部見直しデーターを取りました。私の治癒率は、その頃15パーセントは超しますが20パーセントに届いていなかったのです。あれほど勉強を重ねたのにです。
20代の時に共に古方派漢方を修行し勉強した仲間達は、漢方の世界から離れて行きました。

私は救われた

その後、私は運よく故入江正先生に出会い、入江FTを習いました。
入江先生に与えられた宿題を20年掛け完成させ、現在の糸練功が出来あがりました。
それが私の第2の東洋医学のスタートでした。そして治癒率が圧倒的に上がる切っ掛けとなりました。

漢方を教え続け、思う事

東洋医学を志す先生方へ漢方をお教え始め30年以上が過ぎました。今までお教えした先生方は500人を超えていると思います、数えていませんが。
医薬品販売業の先生、薬剤師、医師、鍼灸師、整体師。様々な先生方がいらっしゃいました。

最初の3、4か月で漢方から興味を失う方もいますが、9割以上の先生方は3、4年は続きます。そこで漢方の勉強から離れていく方も多いです。
離れて行く先生方に共通しているのは、漢方以外に別収入がある場合が殆どです。
また、ご自分の事業に役にたつ十分な漢方の知識になった時点で勉強を止める方もいらっしゃいます。

それぞれの漢方

20年以上続いて漢方の勉強をされている方に共通な点は、患者さんへの想いが強い先生方です。
色々な、それぞれの漢方への関りが有って当たり前です。
ただ教える側からすると。
一人一人の目標が異なります。一人一人に何処までお教えすれば良いのか判断に迷う時があります。
判断に困り迷いながらの30年。これからも悩ましい日々が続くのかもしれません。

修行した弟子たち

博多の当薬局には多くの先生たちが漢方と糸練功を勉強に来られます。
その中で1から3年の期間、地元を離れ福岡に住み、博多の当薬局で漢方治療に従事し修行した子達がいます。

当薬局では毎朝、漢方理論の試験があります。叱られ、糸練功の訓練をし、多い時は1日20人の患者さんを診て修行を続けます。約半数が脱落しますが、最後まで生き残った子達は卒業していきます。

修行する子達にお教えするのは、漢方の知識や糸練功の技も大事ですが、方向性を育てます。
秋のモミジは綺麗です。枝を上にも横にも張り太陽光線を浴び、美しい紅葉を見せてくれます。
紅葉もせず派手ではありませんが、杉の木は上へ上へ伸びていきます。モミジの様に枝を横に伸ばさないよう枝打ちをされます。そして真直ぐ伸びていきます。
私達の修行にはモミジの様な美しさ派手さは必要ありません。
修行する子達が横に伸びないよう枝打ちをします。

最初は肥料も水も与えます。
真直ぐ伸びる方向性が定まり、自分で根を張り水や栄養分を集められるように成ります。ここで最初の修行は終わります。
そこから自分で漢方への思いを更に強め、古典を勉強し、技術を更に磨かないといけません。
それが出来る力が付いたら、当薬局での修行が終わり卒業します。

僕にできる事は、後は見守ってあげるだけです。
知識が豊富、腕が良くなったから、当薬局での修行が終わったのではありません。

ある若手の先生に、どうしたら一流に成れるか問われました。
僕は「一流の技など無い。一流を求める心が一流なのだ」と答えました。

目の前に治せない患者さんが居るかぎり、修行に終わりはありません。
自分で根を張り、天に向かい、真直ぐ伸びて行くことです。