
2022年9月23日;(写真は、大分県豊後大野市、水車です。)
漢方とアトニー型、カタル型
体質は大きく炎症性か弛緩性で二つに分ける事が出来ます。
アトニー
胃アトニーと言う用語があります。
アトニーとは筋肉の緊張、収縮力が失われた状態です。
身体の胴が細く、筋肉も弛緩タイプの人に多いです。内臓下垂や胃腸の動きも悪い事が多いです。
また第12肋骨したの肋骨下角が狭い人が多いです。
適応薬味は白朮(ビャクジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、人参(ニンジン)などです。
漢方では虚証(キョショウ)または陰証(インショウ)と考えられる体質、病態になります。
カタル
一方、カタルは粘膜にて滲出性の炎症の状態です。分泌物が多く炎症性疾患です。
目ヤニを伴う結膜炎や胃カタルなども炎症性疾患です。
消化器では、筋肉緊張タイプの人で胃腸機能が亢進している人に胃カタルが生じやすいです。
黄連(オウレン)、黄芩(オウゴン)などの瀉心湯(シャシントウ)類や牡蠣(ボレイ)などが適応します。
漢方では実証(ジッショウ)または陽証(ヨウショウ)の状態です。
脾虚(ヒキョ)
脾虚と言う漢方用語は漢方を学んだ方なら誰でも知っている概念です。
脾虚は消化器が弱く消化吸収能力の衰えです。
白朮・茯苓の脾虚
虚証の白朮・茯苓証の胃内停水が原因となる場合が有ります。
これには人参剤の四君子湯(シクンシトウ)や六君子湯(リックンシトウ)系統の脾虚があります。
建中湯の脾虚
また胃内停水とは関係なしに桂枝湯(ケイシトウ)の加味方(カミホウ)の小建中湯(ショウケンチュウトウ)系統の脾虚もあります。
小建中湯は桂枝湯の加味方ですが、方意から考えると芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)の加味方とも言えます。
2つの脾虚
まだ胃腸の弱い子供の器質的な体質改善によく使われるのが、小建中湯です。
年配者の機能的に弱ってきた胃腸には、四君子湯、六君子湯が汎用される事が多くなります。
脾虚には四君子湯、六君子湯系統の白朮、茯苓、人参証と、建中湯系統の2種の脾虚が存在します。
この2つの系統から様々な処方が更に発展していきます。
下痢
下痢は誰でも経験のある疾患です。下痢をすると体内のカリウムなどが流れ出るため疲労感等を強く感じる事があります。
同時に体液が失われますので、小児や年配者は脱水に気を付けなければいけません。
激しい下痢は漢方医学の病位(ビョウイ)である陽病から陰病へ1日で落ちる事もあります。
陰証と陽証の下痢
腹鳴(フクメイ)やガスの多い下痢は陽証の事が多いです。瀉心湯類の適応が多いです。
腹鳴の無い場合は陰証の下痢の可能性があります。
粘液便や臭いがある下痢、下痢の後に肛門の灼熱感がある時などは陽証の下痢です。
陰証の下痢は、便後に脱力感を感じたりします。また完穀下利(カンコクゲリ)を呈する事もあります。
完穀下痢とは、穀物が完全な形で出てくる下痢です。食べた物が未消化で出てきます。
東洋医学では陰証と陽証など、患者さんの体質と症状に従い下痢の漢方薬が多数用意されています。
腸内に働く瀉心湯
下痢に使う漢方薬には、陽証では黄芩湯(オウゴントウ)、黄連湯(オウレントウ)、五苓散(ゴレイサン)、瀉心湯などです。
陰証では人参湯(ニンジントウ)、真武湯(シンブトウ)、四逆湯(シギャクトウ)など多数の漢方薬が患者さんの症状や体質により用意されています。
瀉心湯
その中で心下の熱証と言われる下痢には黄連・黄芩・甘草(カンゾウ)の組合せで治療していきます。
黄連・黄芩の薬味構成の処方群は瀉心湯類と呼ばれています。有名な半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)、生姜瀉心湯(ショウキョウシャシントウ)、甘草瀉心湯(カンゾウシャシントウ)を始め、葛根黄連黄芩湯(カッコンオウレンオウゴントウ)や黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)なども瀉心湯の仲間になります。
黄連と甘草
漢方薬の瀉心湯は「心(シン)を瀉す湯剤」煎じ薬です。
東洋医学の「心」は、部位としては鳩尾から胃の付近と考えられます。
「心」に熱が有ると、上焦(ジョウショウ)に上がった熱で高血圧や鼻血、口内炎、精神症状などが起きる事があります。また胃腸症状としては食欲不振、吐き気、下痢などが起きます。
柴胡剤は、柴胡(サイコ)、黄芩の組合せです。
瀉心湯は、黄連、黄芩の組合せです。
腸内細菌叢の植生を変える
この瀉心湯の構成薬味の黄連、甘草(カンゾウ)を煎じると新たな結合体を形成します。黄連のベルベリンと甘草のグリチルリチンが煎じている間に結合し成分が変わります。
出来あがったベルベリンとグリチルリチンの結合体は腸内細菌叢の植生を変えると言われています。
その為、煎じ薬以外の丸剤や散剤の瀉心湯を用いても腸内細菌叢の植生は変わりません。
新たな不思議な漢方薬の一面です。