2020年10月30日
薬酒は食養生
薬酒は何千年も続いてきた東洋医学の食養生であり治療法です。紀元200年頃に書かれたとされる黄帝内経素問、湯液醪醴論には
- 「上古の時代。病人のため重湯と濁酒を万一のために備えた。」精神的にも肉体的にも無理のない生活で病人が少なく、濁酒を使うことも少なく備えるだけだった。
- 「中古の時代。道徳が衰え、無理をする人が増え病人が増えた。重湯と濁酒にて病を治した。」
- 「現代。世の中が複雑で人心が乱れており、病も重い。そのため、処方薬や下薬で邪気を攻撃し、鍼灸で外表の異常を除く。」
と記述されています。
- 重湯とは漢方の上薬、中薬、穏やかな漢方薬味です。朝鮮人参、枸杞、ナツメなどとお米で造ったお粥です。
- 濁酒は漢方の上薬、中薬をお酒に漬けた薬酒です。
どちらも基本は1種類の漢方薬を入れます。
上記3番の現代は今ではなく紀元前200年です。処方薬は漢方薬です。下薬は作用の激しい漢方薬味です。病に成ったら、まず重湯と薬酒で治します。治らない時や、病が重い時に漢方処方を使用するとの記載です。
葛根湯、小柴胡湯、小青竜湯の湯は、タンと発音しスープの意味です。葛根湯は葛根を入れたスープ、小柴胡湯は柴胡を入れたスープ、小青竜湯は青い麻黄を入れたスープの意味です。
軽度のお病気や健康維持のために薬酒は役に立ちます。東洋医学の病向の升降で見ると、果実は降、酒は升の働きです。果実の薬酒は升降のバランスが取れ相性が良いです。大棗、枸杞、梅、カリン、アンズの杏露酒などです。根物は一般に升です。お酒が升ですので根物の効果が更に増します。代表的な物は朝鮮人参酒です。
自分に合った薬酒が分からない方は、お酒だから嫌とかじゃなく、炭酸やシロップで誤魔化さず、まず飲んで見て下さい。味が貴方に合えば、貴方の身体が求める薬酒の可能性が高いです。
薬酒の働き
漢方薬とお酒は相性が良い場合が多いです。当帰芍薬散や八味地黄丸などは本来はお酒で飲む漢方薬です。ただ2000年前のお酒は度数が5度位だったと言われています。日本酒を3倍に薄めた度数です。
お酒の働きは東洋医学では升になります。果実の漢方薬は反対の降の作用ですので、降の毒をお酒の升で中和します。降の生地黄、乾地黄をお酒で修治し、やや升向きにし毒消した熟地黄にするのと同じです。薬酒の実物ではバラ科の梅や杏、リンゴ。他にブルーベリー、大棗、枸杞、柑橘系などお好みで薬酒を作ると良いです。ワインも果実酒です。
根物の漢方薬は升ですので、お酒の升で更に効果が上がります。代表的な生薬は白人参、肉蓯容、白朮などです。イモ焼酎も根物です。
香りのある花や精油の入った香りのする生薬は散の働きです。お酒は升、散ですので相性が良い場合が多いですが、散の働きが強くなり過ぎると刺激性が出ます。刺激が強すぎない生薬を選びます。ベトナム桂皮なども薬酒にします。キンモクセイの花を漬けたのが中華料理に合う桂花陳酒です。
ただ苦い生薬は降の働きが強すぎるため升の薬酒には向かないかもしれません。
薬酒は漢方薬の上薬を1種類だけ漬け込むのが基本です。それを家族や個人の体調に合わせ使い分けていきます。
薬酒の処方
以下に薬酒の処方を幾つかご紹介します。
本草綱目収載の長寿の薬酒です
- 白朮、黄精、天門冬の3味です。
- 私が用いる分量は白朮150グラム、黄精116グラム、天門冬122グラム。私みたいに細かく拘らなくても大体の分量で大丈夫です。
- ホワイトリカー又は25度の焼酎1.8リットルに漬けていました。
- 黄精は玉竹が偽物として出回っている事がありますのでご注意ください。
太陽堂漢薬局でお勧めしていた滋養強壮の薬酒です
- 枸杞子20グラム、山茱萸5グラム、桂皮5グラム、山薬20グラム、五加皮10グラム、大棗30グラム、木天蓼10グラム、竜眼肉10グラム
- ホワイトリカー又は25度の焼酎1.8リットルに漬けます。
- 1回10、20ミリリットル、1日2、3回飲みます。また昼は飲めませんので夜だけ少し多めに飲んでも良いかと思います。
京都伏見の杖野家に伝わる200年以上前からの家伝の薬酒です。順徳酒と言います
- 人参3グラム、桂皮3.3グラム、丁香3.3グラム、防風3グラム、紅花9グラム、木香3.3グラム、淫羊藿3グラム、山薬3.8グラム、茴香6.8グラム、茯苓9グラム
- ホワイトリカー又は25度の焼酎1.8リットルに漬けます。
- 1日量30ミリリットル
- 冷え症、瘀血証、不定愁訴に使われていました。
- 2から8週で改善が見られ、有効率80パーセントと伝えられています。