太陽堂漢薬局の漢方学会・研究会での発表論文

太陽堂漢薬局が、東洋医学関係の学会・伝統漢方研究会全国大会にて発表報告した論文です。ご覧下さい。

【 先表後裏理論 】

2007年11月 伝統漢方研究会第4回全国大会 (日本・有馬向陽閣)

木下 文華

太陽堂漢薬局

福岡県 福岡市・日本

[諸言]

一般的に、漢方薬局・薬店では、相談を受けた患者さんに対し切診を除く問診・聞診・望診(舌診を含む)を行い漢方薬を選薬している。

それら三診に加え医療気功の外気功(1800年前、扁鵲が行っていた「糸脈診」)である糸練功を用いることにより、証(東洋医学的な体質・症状)を判定し、漢方薬分量を0.1g単位まで見極め取り組むことが出来る。

三診と糸練功により証が判定すると、通常、先表後裏・先急後緩の原則に従い優先治療順位を決め、出現した証に対して一つずつ漢方治療を行っていく。

例えばAの証、Bの証、Cの証が出てきた場合、A、B、Cのそれぞれの体質・証に必要な漢方薬を用いるのだが、A→Cの順番で漢方薬を内服することにより、Bの証の改善がみられる症例がいくつかあったので、ここに報告する。

【症例1】44歳女性、体重54kg、身長168cm

主訴:腰痛。他に、手足のむくみ、頭痛、下痢。

既往症:特記すべきことなし。

現病歴:26歳の時にぎっくり腰になり、ここ数年の間に慢性化してきた。レントゲンでは特にヘルニアなどにはなっていない。

最初は左側に痺れがあったが、最近は両側とも抜けるように痛くなる。日頃は事務仕事で座りっぱなし。手足のむくみがあり、ここ最近生理の一週間前はじっとり寝汗をかく。 若いときは陸上の短距離をしていた。今は水中ウォークをしているが、自分では良いかどうかあまりよく分からない。

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【治療経過】

初回来局時

腰痛 臓腑病 膀胱 陽証 0.3合 3+ A越婢加苓朮湯証

腰痛(知覚神経障害) 臓腑病 胆 陰証 -0.1合 5+ C逍遙散証

手足のむくみ、頭痛、下痢 経絡病 膀胱 陽証 0.7合 4+ B五苓散証

A、B、Cの判定は、先ず糸練功による手掌診・経別脈診にて各証ごとに臓腑の決定を行う。臓腑が決定したら、同じく証ごとに薬方見本を手に載せ、stの反応がsmになる薬方を決定。同じ合数で他の証の薬方見本を時間差で載せ、よりsmになる反応を見つけ、優先治療順位を決定する。

この症例の場合、先ず手掌診にて左下焦(腎・膀胱)に越婢加苓朮湯証の反応を確認。更に越婢加苓朮湯を手に載せ、smになることを確認する。再度、同じ合数のまま越婢加苓朮湯を手に載せ、続いて逍遙散を載せ、よりsmになるかどうか、次に同じ要領で先に逍遙散を手に載せた後、越婢加苓朮湯を載せた場合はどうなるか、または五苓散の場合はどうなるか、手に載せる薬方見本の順番を変えながら一つずつ確認を進めていく。その場合、一つの証だけでなく各証ごとに反応をみていく。

これにより、最初に載せるものからA、B、C・・・と優先治療順位を決定するのである。

A、B、Cを判定した後、Bの証の手掌診にて、Bの薬方ではなくAとCの薬方を時間差で手に載せることでsmになった場合、AとCの治療によってBも改善するのではと推測することが出来る。

この症例では、A越婢加苓朮湯証、B五苓散証、C逍遙散証と判定。

A越婢加朮湯(長倉製薬)3.4gに茯苓末(ウチダ和漢薬)0.5gを加えたものを朝・夕、C逍遙散(杉原達二商店)3gを昼・寝る前の順番に飲むことにより、B五苓散証の改善もみられると推測した。

2ヶ月後

腰痛 臓腑病 膀胱 陽証 2.3合 2+ A越婢加苓朮湯証

腰痛(知覚神経障害) 臓腑病 胆 陰証 0.8合 2+ C逍遙散証

手足のむくみ、頭痛、下痢 経絡病 膀胱 陽証 2.9合 2+ B五苓散証

漢方薬を飲み始めて40日経ったころから、調子の良い時が出てきた。手足のむくみなどもとれてきた。

【症例2】42歳女性、体重55kg身長157cm

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主訴:二人目不妊、卵管閉塞。

既往症:40歳時 バセドー氏病

現病歴:二人目不妊症。病院で卵管造影検査をしたところ、どちらかが閉塞し、もう片一方がかろうじて通っている、左右ははっきり覚えていないとのこと。プロラクチン値が高く、カバサールを服用して数値が下がり過ぎたので、5月から服用をやめて様子をみている状態である。

【治療経過】

初回来局時

卵管の瘀血(左?) 臓腑病 肺 陽証 0.5合 2+ B甲字湯加黄芩紅花証 A→E

卵管の脾虚(左?) 臓腑病 脾 陰証 2.7合 3+ E六君子湯証

高プロラクチン血症 臓腑病 肺 陽証 0.2合 3+ A芍薬甘草湯合桂枝茯苓丸証

甲状腺の反応 臓腑病 肺 陰証 0.1合 3+ D半夏厚朴湯合茯苓飲証

妊娠し易い体質作り 臓腑病 胆 陽証 0.3合 3+ C温経湯証 A→D

症例1同様に、A、B、Cの判定により優先治療順位を決定。A→C、A→Dなどでsmになる証がないか追究する。この症例では、Bの証はA→E、Cの証はA→Dでsmの反応があった。

A芍薬甘草湯(長倉製薬)0.4gと桂枝茯苓丸(長倉製薬)1.3gを朝・夕、D半夏厚朴湯合茯苓飲の代用としてN-スクアレン(自然療法協会)2Pを夕食後、E六君子湯(ウチダ和漢薬)6gを昼・寝る前の順番で飲むことにより、出現した全ての証の改善が期待出来ると推測した。

出現した証が多いほど、漢方薬の種類も増え患者さんの負担になりかねない。最小限の組み合わせで、最大限の効果を期待する症例の一つではないかと考える。

【症例3】72歳男性、体重59kg身長163cm

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主訴;頚椎後縦靭帯骨化症

既往症;特記すべきことなし。

現病歴:平成17年11月頃から首~肩にかけて痛くなった。

4月に会社近くの病院へ行き、レントゲンをとり、牽引をするようになった。首の痛みは取れたが、手の痺れが取れないため、紹介状を書いてもらい、平成18年9月初め頃MRIをとったところ、頚椎後縦靭帯骨化症との診断。

疲れた時に気持ちが悪くなり首の後ろも痛くなるので、ワイパックスを飲む。 普段は早朝のウォーキング、昼間は水泳・ジムなどをしている。

【治療経過】

初回来局時

骨化本体の証 臓腑病 膀胱 陽証 0.1合2+ E竜仙合越婢加朮湯証

骨化周辺への影響 臓腑病 胃 陰証 0.6合1+ A桂枝二越婢一湯加苓朮附湯証

経筋の証 臓腑病 膀胱 陽証 2.9合1+ B竜仙合牡蠣仙証

知覚神経障害 臓腑病 肺 中間 0.6合2+ D茯苓飲合半夏厚朴湯証

左手の痺れ(知覚神経障害) 臓腑病 膀胱 陽証 0.5合2+ C桂枝加竜骨牡蠣湯証

左手の痺れ 臓腑病 胃 陰証 0.1合 2+ A桂枝二越婢一湯加苓朮附湯証

A、B、Cの判定は、先に述べた症例同様に決定した。この段階で、A→Cの法則でsmになる証は見当たらなかった。Aから順に優先治療順位を決定し、各証ごとに取り組んでいく方法をとった。

4ヶ月後

骨化本体の証 臓腑病 膀胱 陽証 4.8合1+ E竜仙合越婢加朮湯証

骨化周辺への影響 臓腑病 胃 陰証 4.2合1+ A桂枝二越婢一湯加苓朮附湯証

経筋の証 臓腑病 膀胱 陽証 6合+3 B竜仙合牡蠣仙証

知覚神経障害 臓腑病 肺 中間 4合1+  D茯苓飲合半夏厚朴湯証

左手の痺れ(知覚神経障害) 臓腑病 膀胱 陽証 4.7合1+ C桂枝加竜骨牡蠣湯証

左手の痺れ 臓腑病 胃 陰証 3.9合 1+ A桂枝二越婢一湯加苓朮附湯証

首の後ろの痛みは少し楽になった。左手の痺れも良い時があるような感じがするとのこと。

6ヶ月後

骨化本体の証 臓腑病 膀胱 陽証 5.5合1+ E竜仙合越婢加朮湯証

骨化周辺への影響 臓腑病 胃 陰証 5合1+ A桂枝二越婢一湯加苓朮附湯証

経筋の証 臓腑病 膀胱 陽証 7合+3 B竜仙合牡蠣仙証

知覚神経障害 臓腑病 肺 中間 4.9合1+ D茯苓飲合半夏厚朴湯証

左手の痺れ(知覚神経障害) 臓腑病 膀胱 陽証 5.3合1+ C桂枝加竜骨牡蠣湯証

左手の痺れ 臓腑病 胃 陰証 4.8合1+ A桂枝二越婢一湯加苓朮附湯証

腰痛 臓腑病 胃 陰証 0合3+ A桂枝二越婢一湯加苓朮附湯証

今は腰が痛い。病院から腰椎の第何番目かが炎症していると言われた。炎症止めの新薬を服用しているが、あまり効果はない。ジムの運動を控え、プールで30分ほど歩くだけにしている。プールで歩くと、痛みは楽になったがお尻の周りの筋肉が左右とも痛い。思えば3月頃から腰の調子が悪くなってきたとのこと。

腰痛に、桂枝二越婢一湯加苓朮附湯証を確認。優先治療順位はAと判定。桂枝二越婢一湯加苓朮附湯の代用として賦骨仙(MDR)2Hを用いていたが、途中より適量診にてオキソピン(日本製薬工業)1mlを追加することとした。

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7ヶ月後

骨化本体の証 臓腑病 膀胱 陽証 5.8合1+ F竜仙合越婢加朮湯証

骨化周辺への影響 臓腑病 胃 陰証 5.5合1+ A桂枝二越婢一湯加苓朮附湯証

経筋の証 臓腑病 膀胱 陽証 7.3合+3 B竜仙合牡蠣仙証

知覚神経障害 臓腑病 肺 中間 5.3合+3 E茯苓飲合半夏厚朴湯証

左手の痺れ(知覚神経障害)臓腑病 膀胱 陽証 5.7合1+ C桂枝加竜骨牡蠣湯証

左手の痺れ 臓腑病 胃 陰証 5.3合1+ A桂枝二越婢一湯加苓朮附湯証

腰痛 臓腑病 胃 陰証 2合2+ A桂枝二越婢一湯加苓朮附湯証

腰から足にかけてのふらつき、痺れ(特に右側) 臓腑病 小腸 陰証 0.2合 3+ D黄耆桂枝五物湯 A→E

整形外科で痛み止めの注射をしてもらったこともあり、痛みは止まったものの、歩くと腰のふらつきがある。最初は左足が強かったが、今は右足のほうが酷い。右足のほうに痺れが走っているとのこと。新たに黄耆桂枝五物湯証を確認。これは他の証の改善に伴い、隠れていた証、或いは深い部分の証が出現したのではないかと考えられる。

黄耆桂枝五物湯証の優先治療順位はDと判定。A→Cの法則でsmになる証を探ったところ、A→Eでsmの反応があった。

Aの桂枝二越婢一湯加苓朮附湯証は賦骨仙(MDR)2Hとオキソピン(日本製薬工業)1mlで代用、Eの茯苓飲合半夏厚朴湯証はN-スクアレン(自然療法協会)2pで代用しているが、Dをsmにするには分量が若干足りなかったようだ。

糸練功にて適量診をしたところ、賦骨仙(MDR)2H、オキソピン(日本製薬工業)1mlに対して、N-スクアレン(自然療法協会)3pを用いることにより、smになることを確認。

今までの組み合わせにN-スクアレンを1p増やすことで、黄耆桂枝五物湯証の改善もみられるのではないかと推測した。

【考察】

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現在のところ、先表後裏の原則に従い治療を行うと、表の部分と裏の部分の治療をすることにより、しばしばその表裏中間の証が治療しなくても改善することを経験している。

この現象は、必ず起こるものではないが、実際の臨床では数多く経験する現象である。また内服による湯液治療だけに止まらず、針灸でも同様の現象が起こると推測される。

その理論背景を古典に求めるが、黄帝内経霊枢・難経にこの現象を説明出来る箇所はない。しかし、(五行)という五つの臓腑経絡が行る(めぐる)意味からすれば、当然起こりうる現象かもしれない。

これらの症例により、三つの治療点を治療する場合、従来三剤の漢方薬・施術が必要であったが、二剤の漢方薬、或いは二種の施術のみで三箇所の治療点が改善する患者さんが多いことが理解出来る。これは、患者さんにとって福音であり、臨床家にとっても治療法の簡素化となる。

今のところ、このような現象を説明する理論は、相剋相生理論など東洋医学三千年の歴史のなかで確立されていない。今後、多くの症例を集めることにより新たな理論化が期待されるものである。
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